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4王子様と執事
屋上の扉の前まで来ると、俺はアカに向き直って「で?」と問いかけた。
「ここなら多分誰も来ねえよ。元々ここに来る生徒は少ねえし、こっち側に出し物はねえし。それで、話って何?」
アカは「あの、その」と何度も何かを言いかけては、黙って、を繰り返した。
その様子で、何を切り出そうとしているかを察した。だから俺は、急かさずに黙って待っていた。
どれくらい経っただろうか。アカは深呼吸をして、告げた。
「今更なことだし、ただの自己満足だし、こんなこと言っても困るだけなんだろうけど……俺、ずっと平太が好きだった」
予想通りの言葉だった。それにそのことは知っていたから、特に驚きはしなかった。ただ、アカがそのことを自分から言ったのには驚いた。
アカはそう告げてから、くしゃっと顔を歪めて「やっぱ忘れらんねえよ……」と吐いた。
「高校離れて、忘れられたと思ったんだけど、夏に会ってやっぱ好きだって実感しちゃって。……お前にはあの先輩がいるって分かってんだけどな。あの先輩とイチャついてんのも見たのに」
そしてアカは震える声で続けた。
「一人でお前のこと、諦めんのは無理だ。だから頼む、振ってくれ」
「……お前、やっぱ、すげえよ」
はは、と笑うと、アカは不安げな顔で俺を見た。どんな勘違いをしているんだろう。
「お前だけだぜ、あのメンツの中で、振ってくれって頼んできたの。だから、さすがアカだなと思って。……皆で、抜け駆けしないって約束してたんだって?」
聞くと、「……もしかしてお前、俺らの気持ち最初から全部知ってた?」と問い返してきた。頷いてから、俺は言葉を重ねた。
「それ、凛子が最初に抜け駆けしちゃってからは皆破ってたぜ。お前だけが律儀に守ってた」
アカは呆然としたように黙り込み、やがて、自嘲するように笑った。
「はは、俺、バッカみてえ。とっくに平太は俺の気持ち知ってて、あいつらもとっくに平太に気持ち伝えてて――俺だけかよ。俺だけが、バカを見たんだな」
「俺はアカのそういうところ、好きだけどな。ナリに似合わず誠実で、単純バカだけどいいやつなとこ」
アカはそれを聞いて、さらに顔を歪めた。
「……振ってくれって頼んでんのに、そんなこと言うなよ……いっつもそうなんだよお前は……こっちが望みがないから諦めようとするたびに、惚れ直すようなこと言いやがって……諦めらんねえだろうが……」
アカは顔を片手で押さえると、消え入りそうな震える声でぽつりと呟いた。
「好きだよ平太ぁ……」
さすがにそんなアカを見ていると、俺も苦しくなる。アカは好きだ、だけど友達として。俺が好きなのは真空さんただ一人だ。
だから俺は、さらに傷付けると分かっていながらも、アカをちゃんとここで振ってやらなきゃいけない。
「……アカ」
呼ぶと、アカは顔から手を離した。今にも泣き出しそうだった顔を、無理矢理引き締めると唇を真一文字に結んだ。
「俺はお前のことはどうしても好きにはなれない。あの先輩じゃないと駄目なんだ。先輩だから男でも好きになってるだけで、先輩が女だとしても俺は先輩が好きだったと思う。だから、ごめん」
アカはぼろっと涙を零して、それから何とか笑顔を浮かべた。
「……ありがとう」
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