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2二人で歩んでいくために
「……平太?」
兄貴の声が聞こえた。バレてしまったから、もう言い逃れはできない。だから俺は、一度深呼吸をして、ドアを開けた。
「平太、お前……聞いてたの?」
呆然としたように兄貴が呟く。俺は無言で兄貴に歩み寄り、聞いた。
「兄貴、どういうことだよ……父さんが死んだって……だって、兄貴、そんなこと一言も……」
兄貴は迷うように視線を彷徨わせ、やがて、ぼそっと呟いた。
「ごめん、お前には迷惑かけたくなかったから言わなかったんだけど……親父は死んだんだ、今年の夏、交通事故で」
「……迷惑って……何でだよ、俺たち兄弟だろ、なのにどうして俺には何も教えてくれねえんだよ」
父親が死んだ、その事実はそんなに辛くはない。だって、俺にとって父親はほぼ他人で、兄貴だけが唯一の肉親みたいなものだ。だから、そんな重要なことを隠されていたことが辛い。
兄貴はいつだって、俺に何も言わずにたった一人で抱え込む。言葉にしたら、次々と今までの不満が噴出した。
「ふざけんなよ! 兄貴はいっつもそうだ! 俺に何も教えないで、一人で全部抱え込んで。兄貴が荒れたり女遊びが激しくなったりしたの、一人で全部抱え込んで結果どうしようもなくなっちゃったからなんだろ? 俺がそんなこと、分からねえとでも思った訳? 誰よりも兄貴とずっと一緒にいたの、誰だと思ってんの?」
兄貴は、虚をつかれたように黙り込んだ。まるで、そんな反論をされるなんて思ってもみなかったみたいだ。
「兄貴は俺を見くびり過ぎだっつーの! なあ、母さんの死因、ただの事故じゃないんだろ? 兄貴何か隠してるだろ? だって、ただの事故なら父さんが、あんな女の子供なんか、って兄貴を虐待するはずないもんな? 親戚皆から俺たちが疎まれるはずないもんな?」
「おま、何で……」そう呟きかけて、兄貴は顔をくしゃっと歪めた。「……さすがに分かるよな、そうだよな」
兄貴のそんな顔は、見たことがなかった。酷く弱々しくて、辛そうな顔。その顔を見て、兄貴は相当参っているんだと分かった。
俺は畳み掛けるように、今までずっと思っていたことを言った。
「なあ兄貴! 俺はもう、お前に守ってもらわなきゃ生きていけねえ、か弱い弟じゃねえんだよ! もう高校生だぜ? どんな事実だって受け止められるっつーの!」
兄貴の瞳は揺れて、揺れて、やがて地に落ちた。躊躇う様子を見せる兄貴の背中を、千紘さんが押した。
「誠人。いい加減、平太くんに話してもいいんじゃねえの」
「――でも! 知らない方がずっと幸せに生きていけるに決まってる。平太には今まで、俺のせいで辛い思いさせたから、もうこれ以上、辛い思いは――」
「――だから! そんなことしてもらわなくても俺は生きていける! 大体なぁ、俺が何も知らないでのうのうと生きてる横で、兄貴が苦しんでる姿見るのはもう嫌なんだよ! もちろん、今まで全部背負ってくれたことに感謝はしてる。だけど、そのせいでもうお前ボロボロじゃねえか! いい加減一人で背負いこむなよ!」
兄貴の顔がさらに歪んだ。顔を押さえてため息を吐いて、やがて、僅かに頷いた。
「――分かった、全部話すよ。母さんが死んだ訳を」
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