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7すれ違いは大きくなって

「明塚くん、ちょっといいかな」  帰りのホームルームが終わってすぐ、ロッカーに荷物をしまいに行くと、不意にそう声をかけられた。嫌な予感がして振り向くと、案の定小深山先輩だった。 「何の用ですか」  今までが今までだったからか、妙に身構えてしまう。小深山先輩は薄く微笑んで、俺にこう尋ねた。 「この後、何か用事がある? あるなら明日の昼休みでもいいんだけど」 「ない……ですけど」  小深山先輩はそれを聞いて、「ならちょうどよかった」と頷いた。 「話があるんだ。この後……そうだな、風紀委員の教室に来てもらっていいかな。すぐ終わるから」  嫌な予感しかしない。だけど仮にも先輩の頼みだ、断る訳にもいかなくて、俺は渋々頷いた。 「――広いでしょ、ここ。元は生徒指導室だったんだけど、僕らが全部取り締まってて生徒指導がなくなったから、代わりに僕らが引き受けたんだ」  小深山先輩は、ドアを開けた俺を見て、ふと呟いた。 「そう、なんですか」  がちがちに身構えている俺を見て、ふふっと小深山先輩は笑った。 「随分と警戒してるね。まあ、それも無理ないか」  小深山先輩は薄く笑ったまま、俺の目を見て、切り出した。 「単刀直入に言うよ。明塚くん、真空と別れてくれないかな」  嫌な予感は当たった。また、これだ。一体いつになったら諦めてくれるのか。そんな話なら、聞く価値もない。俺はそう思って、踵を返そうとした。  しかし小深山先輩は「まあ早まらないでよ」と俺を制した。 「またこれか、なんて思ってるでしょ? まあ僕は諦めのいい方じゃないけど、それでも一度は諦めたんだよ。これはさすがに望みがないな、って。だけど、今回はどうしても別れてもらわなきゃいけないんだ。真空のためにも」 「……どういうことですか」  真空のためにも、その一言がなければ俺はきっと、この教室を後にしていただろう。 「ふふ、どういうことだと思う?」  小深山先輩はからかうように笑った。諦めの悪い小深山先輩がまた俺と真空さんを引っ掻き回そうとしている、それだけのはずなのに、なぜだか不吉な予感が膨らんでいく。 「そんなの分かりませんよ。話す気がないなら、俺は帰ります。じゃあ」  その先を聞きたくなくて、俺は投げやりに答えてドアに手をかけた。ドアノブを捻ろうとする手を、また、小深山先輩は止めた。 「僕と真空が付き合うためには、君と真空が別れてもらわなきゃ、困るんだ、ってことだよ」  血の気が引く。ボクトマソラガツキアウタメニハ、ぼくとまそらがつきあうためには、僕と真空が付き合うためには――聞こえた言葉の意味が理解できなくて、何度も頭の中で反芻した。  また小深山先輩がいい加減なことを言っているのか、そう笑い飛ばそうとして振り向いたが――嘘を言うにはあまりにも、余裕のある微笑みで小深山先輩は俺を見ていた。まるで、俺の方が間違っているんだと言わんばかりに。 「何を言ってるんですか。小深山先輩と真空さんか付き合うために――なんて、いい加減なことを言わないでください」  俺が間違っているはずがない、と一度深呼吸をしてから静かに言ったが、小深山先輩は落ち着き払っていた。 「まあ、信じないよね。いいよ、証拠を見せてあげる。……明日の放課後、二年四組の教室に来てよ」  そう言うと「話はこれで終わりだ。時間を取らせてごめんね」と思ってもいないだろう謝罪を口にすると、小深山先輩は俺に帰るよう促した。  小深山先輩がいい加減なことを言っているだけだ――そう思い込もうとしたが、それでも不吉な予感は消えることはなかった。

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