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1俺が全部悪いんだ

「……最近平太、おかしいよな」  俺が切り出すと、真剣な顔をして、和泉も頷いた。  明らかにおかしいのだ。目標額に達したからもうバイトを頑張らなくて済む、そう言っていたのに、平太は相変わらず朝も夜も毎日バイトのシフトを入れていた。しかも、食欲がないと言って弁当にはほとんど手をつけなくなり、昨日なんか昼食を何も持ってこなかった。本人曰く朝も夜もほとんど食べていないという。  今日は明らかに顔色が悪かったので、俺と和泉で、大丈夫だと言い張る平太を保健室に引きずっていった。 「何か心当たりあるか?」  そう問うと、和泉は考え込んで、考え込んで、ぽつりと呟いた。 「そういえば、平太くんの元気がなくなる前の日に、バイトを休むって言われて、何でって聞いたら小深山先輩と話があるんだ、って……」  言いながら、和泉は俺と顔を見合わせた。まさか、と言いたげな顔だった。たぶん、俺も同じような顔になっている。  小深山先輩と平太が話すこと、なんて、前園先輩のことしか思い浮かばない。しかもその後に、平太の様子が明らかにおかしくなっているとくれば―― 「……まだ決めつけるのは早いよ。もしかしたら違うことで元気をなくしてるのかもしれない。ほら、例えばお兄さんに何かあったとか」  和泉の言葉に、俺は首を振った。だって、昨日たまたま平太のお兄さんに会ったが、何事もなかった。それどころか、様子のおかしい平太に気付いていて、すごく心配そうだった。  それを話すと、そっか、と呟いて和泉は口をつぐんだ。 「問い詰めるか、帰りに」  言うと、和泉も頷いて、「なら僕、バイト先のオーナーに僕と平太くんが休むって連絡しとくね」と言いながら携帯を取り出した。  帰りのホームルームが終わった途端に教室を出ようとした平太を「おい平太」と呼び止めた。平太は、少し迷惑そうな顔をして振り向いた。 「なに? 俺、バイト行かなきゃいけねえんだけど」  そう言ってすぐに出ていこうとした平太の前に和泉が立ちはだかり、笑った。 「バイトなら、オーナーに僕と平太くんがもう休むって連絡しちゃったよ。大事な用事があるんだって言ったら、快くオッケーしてくれた」 「は?」  素っ頓狂な声を上げた平太。俺が席に座ったまま、後ろの席に座るよう目で促すと、戸惑うような表情をしていたが、やがて諦めたようにため息を吐き、その席に座りに行った。和泉は、近くの席から椅子を持ってきて、俺の隣に座った。  一つの机越しに平太と向き合っていると、平太は焦れたように「何の用?」と尋ねた。だけどまだだ。もっと人がいなくなってからじゃないと。  俺たち三人しか教室にいなくなったところで、ようやく俺は口火を切った。 「――平太、お前、前園先輩となんかあった?」  一瞬、顔が引きつった。だけどすぐに平太は「はあ?」とその言葉を笑い飛ばした。 「何もねえよ、いつも通り。何の用かと思ったらそんなことか。あ、もしかして、何か俺のこと心配してくれてんの?」  それどころか、平太はいつも通りに、からかうような調子でにやっと笑った。いつも通りだ。だけど、一瞬顔が引きつった、あれが嘘だとは思えない。 「あれ? 違うってよ、渉くん」  疑うことを知らない和泉は、不思議そうな顔をして俺を見た。俺は思わず「馬鹿」と和泉を軽くどついた。違うはずがない。一度顔が引きつったんだ、畳み掛ければきっと吐く。 「そうだよ、心配してんだよ。お前目標額に達したって言ってたよな? じゃあ何でバイトやめねーの? 飯もろくに食わねーで、お前体壊したいの? なあ、何かあったなら俺らに言えよ。俺らに言えねーようなことでもあんの?」  まっすぐに見据えて言うと、平太は少し身を引いて、耐えかねたように視線を逸らした。もう少しだ、もう少しできっと、白状する。 「俺らそんなに信用できない? 俺らに悩みなんて言いたくねーってか。なあ言えよ。言ってすっきりしろよ」  平太は顔を歪めた。そして――不意にぼろっと涙を零した。

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