232 / 373

4俺が全部悪いんだ

「そんなこと考えたことなかった、俺が悪い俺が悪いって自分責めるばっかで。……そうだよな、ああすればよかったって今更思っても、どうしようもねえよな」  平太が、そんな笑顔で笑いながら頷いた。少しだけ、前を向けたみたいだ。 「そうそう、その調子だ平太。……やけ食いでもする? 俺付き合うぜ。そしたら気が晴れるかもしれねーし」  提案したが「わり、食欲無かったからいきなりは食えねえよ」と断られた。まあそうだろうなと思いつつ、俺はその提案を引っ込めた。 「じゃあ遊園地行こう! あったじゃん、入場は無料で今イルミネーションがすごいとこ。騒いだら気分もすっきりするかも!」 「あそこか。あそこ、入場無料な代わりにアトラクションめっちゃ高いじゃん。観覧車が一回八百円くらいしなかったっけ? 平太、そんな金ないだろ」 「僕が奢るよそれくらい! 僕も、バイト始めたきっかけは家計のためだけどさ、今はお父さんの店が順調だし、本当はやめてもいいくらいなんだ。稼いだ分全部、僕のお小遣いになってるし。カフェの経験積むためにバイト続けてるようなものだし。ねっ、どう?」  きらきらした瞳で和泉が言う。その瞳があまりにも輝いていて、駄目と切り捨てることはできなかった。 「お前さぁ……自分が行きたいだけだろ? 平太のこと考えろよ。こいつ朝死んでただろ? それなのにそんなとこ、行けるわけねーじゃん」  迷った挙句、平太のことを考えてそう言った。それを聞くと、和泉は途端にしおれた。 「そうだった……ごめん、僕考えなしで、平太くんのこと何にも考えてなかった……」  そんなに行きたかったのか、と思ったが、和泉の言葉を聞いて、思い直した。こいつは自分が行きたかったところに行けなくてこんなに落ち込むやつじゃない、自分が平太のことを蔑ろにしてしまったことに落ち込んでいるんだ。  平太はそれを聞いて少し考え込んで、やがてがたっと椅子を鳴らして立ち上がった。 「行こうぜ、そこ」  俺と和泉は、同じように呆気にとられてしまった。平太がそんなことを言うなんて、思わなかった。少し申し訳なさそうに断るのだとばかり。 「お前……さすがに体調悪いだろ、それで熱でも出したらどーすんの?」 「そんなん、学校休むに決まってんだろ。このまんま体調何となく悪いの引きずってる方が体によくねえし、一回熱出して休んじゃった方が逆に体にいいだろ」  やけになっているのかもしれない。言っていることがめちゃくちゃだ。だけど、平太が少しでも元気を取り戻してくれるならいいか、そう思って俺も立ち上がった。 「オッケー、そうなったら俺もお前と一緒に休んでやるよ。んで、具合悪そうな平太のことちゃんと見守っててやるから」 「お前さ、それ見守るとか言ってるけどただ単に、学校サボる理由欲しいだけだろ? 明日は渉の大っ嫌いな化学基礎と数Aがある日だし、化学基礎は明日小テストだし」 「大正解、明日ほど最悪な日はねーな。大丈夫、ちゃんとゲームしながらお前のこと見守っててやるから」  冗談めかしてにやっと笑うと「お前それはないわ」とつられて平太も笑った。 「行く? 本当に行く?」  きらきらした目で和泉が見上げる。「行こうぜ」と俺が笑って「もうどうにでもなれ」と平太が天井を仰いでから頷くと、和泉は「うん!」と頷いて、慌てて荷物をまとめ出した。  平太は楽しそうだった。やけになっているような感じだったけれど、それでも鬱々とするよりはずっといい。これで少しでも平太の気が晴れれば、来た甲斐があった。  俺は特に何もしてやれないけど、平太の気晴らしに付き合うくらいならいくらでもできる。だからせめて、今は平太の自暴自棄な明るさに付き合ってやるか、と俺は思った。

ともだちにシェアしよう!