233 / 373

5俺が全部悪いんだ

『和泉ー? あの、平太やっぱ今日熱出したらしくて、だから俺、学校サボって平太の家行ってやるんだけど、和泉はどうする?』  朝から電話がきて、何だろうと思って電話を出ると、渉くんだった。サボるって本当だったんだな、なんて思いながら僕は「遠慮しとくよ、放課後に平太くんの家に行く」と答えた。僕は今日、学校でやらなきゃいけないことがある。  渉くんは、あっさりと『だと思った。りょうかーい』と電話を切った。平太くんは大丈夫だろうか、そう心配になるが、一刻も早くやっておきたいことがあるから、僕は今日学校に行かなきゃならない。  ――平太くんは俺のせいだと言っていたけど、どう考えたって平太くんと先輩が別れた理由は、少なからず僕も関わっているはずだ。それはさすがに、鈍い僕でも分かる。  そんなつもりじゃなかったんだ。確かに、平太くんと一緒にいられたのは嬉しかった。だけど、先輩から平太くんを奪おうなんて、そんなことは一切考えていなかった。  でも、そんなつもりじゃなかった――そんな言葉で、許されるようなことじゃない。だから僕はせめて、平太くんのために何か、少しでも何かしてあげたかった。  このまま平太くんが先輩を諦めればいい、それで、僕と付き合ってくれればいい、そう思う自分がいないと言えば嘘になる。だけど、そんな平太くんと付き合うより僕は、自分が辛くても、平太くんがまた笑ってくれることの方がいい。  大丈夫、大丈夫だ、僕ならできる――僕は呼吸を整えて、自分にそう言い聞かせて、放課後、二年四組の教室に向かった。  教室を覗くと、運良く、帰り支度をする前園先輩を見つけた。何度もためらったが、結局「前園先輩!」と呼びかけた。前園先輩はリュックを背負ってから怪訝そうにこちらを振り向き……僕を見て、固まった。 「……あ、あの! ちょっと話したいことがあって……五分、五分だけでいいので、僕と話を――」  僕は必死に話しかけた。多分、平太くんと前園先輩はすれ違ってすれ違って、最終的にこうなってしまった。だから、もしかしたら何も変わらないかもしれないが、僕と平太くんは何もないんだ、その誤解だけは解きたかったのだ。  前園先輩は動揺するように無言で僕を見つめながら、二度、三度、と瞬きをすると、やがて僕の方へ歩き寄ってきた。話を聞いてもらえるのか――そんな僕の淡い期待は、裏切られた。 「……お前と話すことなんて何もない。じゃあな」  前園先輩は無感動な声でそう吐き捨てると、僕を振り返ることもせずに、教室を後にしてしまった。 「ま、待ってください! ちょっとだけでいいので……!」  慌てて追いかけようとすると、前園先輩の歩みを止めるように前に立ちふさがると「どうしたの?」と二人に話しかけるように、小深山先輩が尋ねた。  僕が何と言おうか迷っていると、前園先輩は僕の方を振り向かずに、僕のことを親指で示した。 「会長が、俺に話がある、と。俺は話すことなんて何もないと思ったから、断ったが」 「話? 真空に?」小深山先輩は訝るように聞き返すと、僕の方を向いて、こう尋ねた。「その話って、僕にじゃ駄目かな」  小深山先輩に言って、どうにかなるだろうか。……分からないけど、小深山先輩から前園先輩に伝えてもらえれば、せめて、その誤解くらいは解けるはずだ。 「小深山先輩でも大丈夫です。……あの、じゃあ今からちょっとお話できますか?」  小深山先輩は頷いて、風紀委員の部屋に来てよ、と答えた。

ともだちにシェアしよう!