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7俺が全部悪いんだ

「それが本当であれ誤解であれ、明塚くんのことで真空が泣いてた事実は変わらないから。僕はもう、真空にあんな顔させたくない。だから、誤解だったとしても僕の気持ちは変わらないよ。あの二人は別れてよかった」  同じだ。小深山先輩は、僕と同じなんだ。僕が平太くんを好きなように、小深山先輩も前園先輩が好きなんだ。  ただちょっと、やり方が違うだけ。僕は平太くんのために自分の恋を諦めて、小深山先輩は前園先輩のために平太くんの恋を諦めさせた。やり方が違うだけで、本質は変わらない。  小深山先輩は悪じゃない。だけど、やり方は間違えている。少なくとも僕はそう思う。だって、僕はどうしても、付き合っていた二人を別れさせるなんて、どんな理由があるにしろ、正しいとは思えない。 「……前園先輩は、もう平太くんのことが好きじゃないんですか」  尋ねると、小深山先輩は顔を歪めた。余裕のあった表情が、急に痛いところを突かれたような顔に変わる。 「……好きだよ。今でもずっと。別れたけどそれでも、明塚くんだけが好きだって」  よかった、そう安心する一方で、ずきっと心が痛む。どうしてだろう、僕はもう、平太くんのことは諦めたはずなのに。平太くんと前園先輩をどうにか復縁させる、って決めたはずなのに。  僕はそんな痛みを、服の裾をぐっと握って無理やり忘れて、小深山先輩に問いかけた。 「なら僕は、小深山先輩のやり方、間違ってると思います。だって、平太くんも今でもずっと、前園先輩が好きですから。小深山先輩も、本当は分かってるんじゃないですか」  小深山先輩は、目をふらっと彷徨わせた。多分小深山先輩も、それはずっと感じていたんだろう。 「小深山先輩はいいんですか、前園先輩がまだ好きなのに、って苦しんでるのを隣で見てて。……僕は嫌です。自分が苦しむことよりずっと、平太くんが苦しんでるのを見る方が、僕は嫌です」  小深山先輩はとうとう、目を伏せた。小深山先輩も、本当はよく分かっていたんだろう。その上で、だけど自分は前園先輩を泣かせた平太くんが許せないから、と、自分に言い聞かせていたんだろう。 「お願いします! 小深山先輩から、前園先輩の誤解を解いてもらえませんか」  僕はだめ押しに、そう頭を下げた。小深山先輩は何も答えなかった。何を考えているんだろう、察しの悪い僕には、よく分からなかった。  小深山先輩はやがて、何かをぽつりと呟いた。え? と聞き返しながら顔を上げると、小深山先輩はふるっと笑った。悲しげで憂いを帯びた笑顔だった。 「強いね、君は」  どういうことだ、と聞き返そうとしたが、小深山先輩は不意に僕に背中を向けて、扉を開いた。 「真空の誤解を解くっていうの、考えておいてあげるよ」  小深山先輩の心に僕の言葉が少しでも響いたのか、それは分からない。だけど、僕なりにできることはやった。無言で教室から出るよう促す小深山先輩に僕は頷くと、教室の外に出た。

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