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3僕ならできるのに
少しだけ、嫌な緊張をしている。相手に嫌な顔をされて拒絶されるのは、目に見えていることだからだろうか。だけど僕は、今から間違ったことをする訳ではない、真空のためのことだ。
僕は軽く深呼吸して、一年の教室に向かった。
「明塚くん、ちょっといいかな」
僕がそう後ろから声をかけると、明塚くんは、
「何の用ですか」
と、警戒心ありありの様子で振り向いた。予想通りの反応だった。
「この後、何か用事がある? あるなら明日の昼休みでもいいんだけど」
明塚くんの顔がさらに曇った。しかしそれでも、明塚くんはかぶりを振った。
「ない……ですけど」
「ならちょうどよかった。話があるんだ。この後……そうだな、風紀委員の教室に来てもらっていいかな。すぐ終わるから」
明塚くんの顔が引きつった。よほど僕と話をするのが嫌なのだろう。しかしそれも仕方ないかな、とは思う。明塚くんが渋々ながら頷いたのをみて、僕は踵を返した。
「――広いでしょ、ここ。元は生徒指導室だったんだけど、僕らが全部取り締まってて生徒指導がなくなったから、代わりに僕らが引き受けたんだ」
「そう、なんですか」
明塚くんはがちがちに身構えていた。それをみて僕は、思わず笑ってしまった。
「随分と警戒してるね。まあ、それも無理ないか」
余裕に見せなくては駄目だ。余裕を見せなくては、僕が適当なことを言って悪あがきしているのだと思われる――そう思い僕は、薄く笑ったまま、明塚くんの目を見て切り出した。
「単刀直入に言うよ。明塚くん、真空と別れてくれないかな」
明塚くんは、またこれかと言いたげな顔をして踵を返そうとした。それは予想通りの反応で、だから僕はすぐに「まあ早まらないでよ」と制した。
「またこれか、なんて思ってるでしょ? まあ僕は諦めのいい方じゃないけど、それでも一度は諦めたんだよ。これはさすがに望みがないな、って。だけど、今回はどうしても別れてもらわなきゃいけないんだ。真空のためにも」
「……どういうことですか」
明塚くんの顔が一瞬ひきつる。
「ふふ、どういうことだと思う?」
僕はからかうように笑ってみせた。
「そんなの分かりませんよ。話す気がないなら、俺は帰ります。じゃあ」
明塚くんは投げやりに答えてドアに手をかけた。投げやりだったが、それはきっと不安の裏返しだ。
「僕と真空が付き合うためには、君と真空が別れてもらわなきゃ、困るんだ、ってことだよ」
明塚くんの顔が青ざめた。それを見て今までは思わないようにしていたのに、今更何なんだ、そう言いたくなった。ずっと真空を放っておいて、会長とばかり一緒にいて、もうとっくに真空のことを捨てたのだと思っていたのに。
真空のことがもうどうでもいいのなら、どうしてそんな反応をするのか。それともそれが勘違いだというのなら、どうして今まで真空を蔑ろにしてきたのか。
「何を言ってるんですか。小深山先輩と真空さんが付き合うために――なんて、いい加減なことを言わないでください」
一度深呼吸をして、落ち着き払った声で言う明塚くん。思った通り、明塚くんは信じなかった。それを見越して、真空に頼んでいるのだから、問題はない。
問題はないが、僕の気持ちは収まらない。何を今更、と頭の中で喚く声が止まらない。それを押し込めて、僕は薄く微笑んだ。
「まあ、信じないよね。いいよ、証拠を見せてあげる。……明日の放課後、二年四組の教室に来てよ」
僕はそう言うと、「話はこれで終わりだ。時間を取らせてごめんね」と明塚くんを帰るよう促した。
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