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5僕ならできるのに

 これでいいんだと思っていた。 「……はぁ」  僕は正しいんだと思っていた。だけど、いつまでも暗い顔でため息を吐く真空を見ていると、本当に僕は正しかったのか不安になってくる。  真空がこれ以上傷付かないために別れさせたはずなのに、真空は別れた今でも、明塚くんを目で追い続けている。これじゃ、今までと何も変わらない。 「……真空?」  真空はしばらくぼうっと、窓の外の明塚くんを眺めると、はっとしたように僕を見た。 「……すまん、何だ?」 「まだ明塚くんのこと、好き?」  単刀直入に問うと、真空は目を伏せた。憂いの濃い眼差しに、胸が痛くなった。  これで本当によかったのか。その疑問は二人が別れてからずっと、僕の胸の内のどこかを占めていた。別れても真空はずっと辛そうなのだから、いっそのこと、別れずに付き合い続けていた方が良かったんじゃないか、とすら思えてくる。 「別れてよかったとは、思ってる」  真空は窓の外に視線を戻すと、ぽつりと呟いた。嘘だ。そんな顔、していないじゃないか。  そう思ったが、真空は窓の外から目を離さないまま、続けた。 「俺の気持ちがどうこうじゃなくて……別れてから平太はずっと会長といるから。俺の存在が重荷だったんだろうから、やっぱり別れてよかった」 「そんなの……真空自身の気持ちはどうなのさ」  真空は何かを堪えるような表情になった。瞳が揺れて、やがて、小さく呟いた。 「平太が幸せなら、それでいい。俺自身の気持ちはどうでもいい。俺は別に、平太との思い出があればそれでいいからな」 「……じゃあなに? 真空は別れた後もずっと、明塚くんを想い続けるっていうの? 明塚くんとは何も言わずに、黙って好きでい続けるっていうの?」 「……そうなるな」  何だそれ。僕がどうして二人を別れさせたのか、真空は何も分かっていない。僕は何も、明塚くんと会長が心置きなく二人でいられるように別れさせた訳じゃない。  全て真空のためなのに。真空が、ちゃんと前を向いて笑えるように関係を断ち切らせたのに。それなのに、当の真空が傷付き続けるんじゃ、意味がない。 「何それ。真空は本当にそれでいいの? 真空は本当にそれで、幸せなの?」  真空は固く拳を握って、押し黙った。しばらく何も言わずに真空の言葉を待っていると、真空はぽつりと、悲しげな色の言葉を紡いだ。 「……本当は平太といる会長を見て、平太の隣は俺の場所なのにって思う。本当は嫉妬だって、気が狂いそうなくらいにしてる。本当は……本当は、また前みたいに付き合いたいに決まってる。でも俺じゃ駄目だから、もう駄目だから、もうどうしようもないからっ……」  僅かに語尾が裏返る。真空はさらに固く拳を握り込んだ。 「……幸せなんかじゃない、幸せになんか、なれる訳ない。……俺は平太が、どうしようもないくらいに好きだから。平太が、付き合ってた頃の何倍もかっこよく見えて、なおさら好きになって、苦しくて……もう俺は、どうすればいいのか分からない」  泣く寸前のような顔をして、真空は俯いた。  僕じゃ駄目なんだ。そう、痛いくらいに思い知らされた。僕だったら絶対そんな顔させないのに、だけど逆に言えば、真空にそんな顔をさせられるのは、明塚くんだけなんだ。  心臓が痛くて、苦しくて、僕は何を言っていいのか分からなかった。分からなくて、慰めることもできなくて、僕はただ、黙りこくることしかできなかった。

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