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7僕ならできるのに

 僕はずるい。自分が真空を傷付けたんだということを認めたくないのだ。さらに言えば、真空と明塚くんを復縁させたくないのだ。 「それにね、僕としては誤解でも誤解じゃなくても、どっちでもいいんだ。それが本当であれ誤解であれ、明塚くんのことで真空が泣いてた事実は変わらないから。僕はもう、真空にあんな顔させたくない。だから、誤解だったとしても僕の気持ちは変わらないよ。あの二人は別れてよかった」  自分に言い聞かせるように、そう言った。  僕は本当にずるい。耳触りのいい言葉で誤魔化して。心の底ではやっぱり、真空と明塚くんが復縁してほしくないと思っているのに。確かに今言ったことは本当だ。だけど、それが全てではない。 「……前園先輩は、もう平太くんのことが好きじゃないんですか」  痛いところを突かれ、思わず顔が歪む。嘘を言うわけにはいかず、正直に答えた。 「……好きだよ。今でもずっと。別れたけどそれでも、明塚くんだけが好きだって」  会長の顔が一瞬暗くなった。だけど、すぐに会長は僕に向き合って、毅然と告げた。 「なら僕は、小深山先輩のやり方、間違ってると思います。だって、平太くんも今でもずっと、前園先輩が好きですから。小深山先輩も、本当は分かってるんじゃないですか」  分かっている。きっとそんなことは、ずっと前から分かっていた。分かっていたけど分からないふりをしていた事実を叩きつけられ、苦しくなった。 「小深山先輩はいいんですか、前園先輩がまだ好きなのに、って苦しんでるのを隣で見てて。……僕は嫌です。自分が苦しむことよりずっと、平太くんが苦しんでるのを見る方が、僕は嫌です」  会長は凛とした声で続ける。――彼は強い。色々と言い訳を重ねて自分に都合がいい方向に進めようとする僕とは、違う。  一体その覚悟は、どれほどの痛みを伴ったものなのだろう。まだ好きなのに、好きな人とその元恋人を復縁させるために自ら動くなんて、相当の覚悟がなきゃできない。そう考えると、自分が恥ずかしくすらなってくる。 「お願いします! 小深山先輩から、前園先輩の誤解を解いてもらえませんか」  誤解を解いたその先にある結末が何なのか、彼が分からないはずがない。それなのにそんなことをわざわざ先輩である僕に頼むなんて――僕にはできない。悔しいけどできっこない。だけど、彼の苦しい覚悟を見てもなお、全く心が動かされないほど、僕も強情じゃない。  僕が良かれと思ってやったことは全て裏目に出た、それは認めなきゃいけない。その上で、二人にきちんと償いをするべきだ。――頭では理解したが、ああだけど、できそうにない。それでもしなきゃいけない。じゃないと彼の覚悟も、真空の想いも、全て僕のエゴのために踏みにじることになる。 「強いね、君は」  彼は強いのだ。彼はきっと、本当の意味で他者のために生きることのできる強さを持っている。  僕はあることを一つ決意して、それから呟いた。 「真空の誤解を解くっていうの、考えておいてあげるよ」

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