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1これからのこと

「泣いてたんですか、真空さん」  平太は笑い混じりに尋ねた。 「だって……嬉しかったから」  平太は顔を綻ばせて、それから気付いたように顔を苦くさせた。どうしたのかと尋ねると、平太は少し気まずそうに答えた。 「今日誕生日でしかもクリスマスですよね? でもプレゼントとか何も考えてなくて……それどころか、多分お金がないので何も買えなくて……」  そんなことか。俺はかぶりを振った。プレゼントなんていらない、平太がいればそれでいい。 「本当ですか? すみません、来年は何かちゃんと買いますね。……これからどこか行きますか?」 「じゃあ、一緒に行きたいところがあるんだが、いいか?」 「……好きなんですか?」 「ああ。……言わなかったか? 映画が好きだって」 「聞いたことないです。……へえ、真空さんの好きなもの、一つ知れてよかった」  平太はチケット売り場に並びながら、ふと呟いた。 「ああ、だから俳優になってほしいって何度も言ってたんですか?」 「……まあ。芝居経験ゼロであそこまで上手いんだから、きっと銀幕映えするんだろうなと思って」 「大げさですよ。そんな才能ないですしなりたくもないです。……で、どの映画見ます?」  指差したものを見て平太は、「ああ、あれ」と呟いた。 「見たいなって思ってたけど結局見れてないやつです。あれは俺も見たいです」 「面白かったぞ」 「へえ……」頷きかけて平太は、あれ、と首を傾げた。「……もう見たんですか?」 「今上映中の映画は大抵見た」 「本当に映画好きなんですね。……知らなかった、ちょっとショックです。これは確かに、たかが数ヶ月一緒にいただけって言われますね」  少し暗い顔で呟く平太に「これから知っていけばいいだろ」と声をかけた。  俺だってまだ平太のことは知らないことの方が多い。せっかくやり直せたんだから、今度はちゃんと、すれ違わないようにお互いのことを知っていきたい。 「それに、俺だって平太の趣味をよく知らない」 「あれ、言ったことありませんでしたっけ? ゲームが趣味だって」  聞いたことがない。あれだけおしゃれなのだから、てっきりファッションなんかが趣味なのかと思っていた。ゲームが好きだという話はおろか、そんな様子も見たことがない。 「ゲームって、どういう?」 「大抵やりますよ。パズルゲーとかRPGとか音ゲーとか格ゲーとか、あと今はお金がなくて行ってないんですけど、一人でゲーセン行くのが好きです」  目を瞬くと「意外ですか?」と平太は尋ねた。頷くと、平太はそうですよね、と言った。 「同じことを渉にも言われました。全然ゲーマーに見えないって」 「こうしてみると、まだまだお互いのことを全然知らないな」 「これからでいいですよ、どうせ俺はずっと真空さんのことだけが好きなので」  平太はさらっと呟くと、チケットを買う順番が来たと財布をバッグから取り出した。  平太は日常の延長線上で俺に愛を伝えてくる。変わっていない。そうやって何気なく言われるのはやっぱり嬉しくて恥ずかしくて、堪らなく好きだと感じる。 「……平太、俺が払うから。金ないだろ」  さっさと座席を指定して自分の分どころか俺の分まで出そうとする平太に気付き、慌てて制して財布を取り出した。でも、と言いかけて、平太はその言葉を飲み込んだ。 「すみません。そういうところ、かっこいいですよね」  かっと頰が熱くなる。――俺よりずっと、金がないのに何も言わず奢ろうとしたり些細なことで褒めてくれる平太の方が何倍もかっこいい――とはさすがに言えず、俺は黙って会計を終えた。

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