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2これからのこと
もう一度見た映画だけど、それでも楽しみだ。二回見てもまた楽しめるとレビューにいくつも書いてあったし、俺自身ももう一回見たいと思っていた。それに何より、隣に平太がいる。
平太との距離が近いのが気になって、真冬なのに少し暑い。手持ち無沙汰を誤魔化すように買ったキャラメルポップコーンを口に運ぶと、少しして「俺ももらっていいですか?」と平太が問いかけてきた。俺が食べるのを待っていたんだろうか。
平太はポップコーンを口に入れ、それから飲み物に手を伸ばし……ぼうっと予告を見ていたせいか、俺の分を間違って持っていって、そのまま飲んでしまった。間接キスだ、と少し胸が高鳴ってしまう俺とは裏腹に、平太は飲んで、咳き込んだ。
「あ、すみません。真空さんのを飲んじゃいました。……というか真空さん、これ本当にアイスコーヒーですか? めちゃくちゃ甘くないですか? ガムシロ何個入れました?」
「……四個」
「四個!?」
平太はふきだして、くっくっと笑った。多いことは分かっていたが、笑われると恥ずかしい。「わ、笑うなよ」と少し口を尖らせると、笑いながらすみません、と謝った。
「甘いものが好きなのは知ってましたけど……さすがですね。……あーやっぱ、そういうところもすげえ可愛い」
わっと体温が上がる。本当にやめてほしい。平太は何気なくそういうことを言ってくるから、なおさら好きになって、離れられなくなる。
あまりにも何気ないから、すぐに他の誰かに言ってるんじゃないかと心配になるし、誤解してしまう。だけど恥ずかしくてそんなことは言えないから、そういうことがあってあのすれ違いがあったのかなと思う。だから、思ったことはすぐ言おうと決めたのに――やっぱり恥ずかしくて言えない。
そんな俺の様子を見て察したか、平太はふと囁いた。
「心配しなくても、こんなこと言うのは真空さんだけです。本当に好きだから、意識しないで言っちゃうんです。……真空さんって、すぐ不安がって、でもそれを俺に一切言いませんよね? 俺がそれに気付ける時はいいんですけど時々見逃しちゃうので、極力そういうことは言ってください」
「……めんどくさくないか? それからすぐに心配するの、重いかなって……」
「またすれ違いたくないんです。それに俺、真空さん相手ならいくら重くても苦にならないです」
「……本当か?」
「本当です」
平太は真剣な顔で頷くと、ふっと表情を和らげて「そろそろ始まりますね」と前に向き直った。
映画デートといえば、たとえば暗い中で手を繋いだり、隣にある体温にどきどきしたり、周りに気付かれないようにキスしたり、――そんなものだと思っていた。
でも残念ながら映画に真剣になり過ぎて、気付いたら終わっていた。どれくらい真剣だったかというと、エンドロールが流れ終わって、ぼやーっと明るくなってきて、一息ついて、そこでようやく手を繋がれていることに気付いたくらいだ。
「気付かなかった……すまん」
繋がれた手を見て謝ると、平太は意外そうに目を瞬かせ、けらけらと笑い出した。
「っははは! ……めちゃくちゃ真剣でしたしね。繋いだ時に目もくれないどころか、ポップコーン食べる時ですらスクリーンから目を離さなくて、こぼさないか冷や冷やしてました」
「本当にすまん……これじゃ二人できた意味がないよな」
「いや、俺は楽しかったですよ? すごく真剣でころころ表情が変わる真空さん、見てて楽しかったです。普段はそんなに表情が変わらないのに、映画見てる時ってああも変わるんですね」
「……変わってたか?」
聞き返すと、平太はまた笑い出した。
「変わってましたよ。ビデオ撮って見せたいくらいです」
平太は言いながら荷物をまとめ、ポップコーンと飲み物を持って立ち上がった。
「次どこ行きます?」
「平太の行きたいところは?」
聞き返すと、平太は少し考え込んで答えた。
「ありますけど、今の時間行っても早過ぎるので、真空さんの行きたいところ行きましょう」
「……分かった。じゃあちょっと、買い物に付き合ってほしくて――」
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