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3これからのこと
「……たっけえ」
平太が品物のセーターを手にとって値札を見て、顔を引きつらせた。
「そんなもんじゃないか?」
「いやいや……セーターで五万近くもするって絶対高いです。俺が今身につけてるもの全部合わせてもそんなに行きませんよ」
「そんな安いのか?」
驚いて聞き返した。服なんてこれくらい普通にすると思っていたのに、それよりずっと安くて、それなのにこんなにおしゃれだなんて驚いた。
「これが高過ぎるんです。その気になれば一万円以下で全身揃えられます」
信じられなくて俺は思わず「……それ本当に服か?」と尋ねてしまった。すると平太は「はぁ……」と感嘆と呆れが混ざったようなため息を吐いた。
「……だからこんな私服なんですね……」
「こんなってどんなだ?」
「クールで上品な私服です。隣に並ぶと正直、ちょっと気後れします」
そんなことを言われたのが意外でそうなのか、と呟いた。俺は平太の私服がハイセンスなので正直気後れしていたが、平太も平太で気後れしていたとは。少し笑ってしまった。
「で、何が欲しいんでしたっけ」
コートだと答えると、「コートか……」と平太は呟いた。
「いいなぁコート。真空さんが今着てるピーコート、かっこいいですよね。……新しいコートが欲しいってことなら――これとかどうです?」
平太は近くから持ってきたコートを俺に見せた。確かにそれはセンスがよかったが俺はそれには答えず、自分が今着ているコートを見下ろして「……このデザイン好きか?」と問いかけた。
「俺は好きです」と平太が答えたのを聞いて、俺は同じデザインのものを見つけて、すぐ会計に持っていった。
会計を済ませようとしてふと、財布の中にある金じゃ足りないことに気付いた。仕方なくカードで会計を済ませ、会計済みのコートを持って店を出てから、泡を食った様子の平太に気付いた。
「どうした?」
「どうしたもこうしたも……今のコート、一着だけでウン十万したじゃないですか……しかも会計の時出したカード、ブラックカードですし……ブラックカードなんて本当に存在してたんだ……」
「ああ――」食い入るようにブラックカードを見つめている平太を見て、「見るか?」と苦笑しながら差し出した。
「すっげえ……ブラックカードって本当に黒いんですね……」
「ブラックカードだからな」
妙に感心したようにひっくり返したりして平太がそれを眺めるので、笑ってしまった。ただのカードなのに、どうしてそんなに楽しそうに見ているのだろう。
しばらく眺めていた平太だったが、ふと気付いたように「そんなことより」とカードを返して、問いかけた。
「今着てるやつと同じコートを買ってどうするんですか? それ、全然ボロボロには見えませんけど」
俺は、ああ、と思い出して今買った袋を平太に差し出した。「え?」と袋と俺とで視線を行き来させる平太に、言った。
「お前、コート持ってないだろ。最近すごく寒いのに学校にコートを着てこないのが気になって……ピーコートなら制服の上からでも着られるし、着てくれ」
「……は!?」素っ頓狂に聞き返すと、平太は顔を引きつらせた。「いやいやいや、こんなウン十万のコートなんて畏れ多くて着れませんし、そもそも真空さんの誕生日ですよね? 何で俺がプレゼントもらうんですか」
「欲しいものがあったら大抵自分で買えるから、金じゃ買えないものが欲しくて」
「って、何ですか」
それを言うのは恥ずかしくて、思わず小声になってしまった。
「……平太とお揃いの服」
平太は意表を突かれたのか、押し黙った。
言った後、どんどんと恥ずかしくなってきて、平太の返答を待たずに恥ずかしさのあまり「いや、やっぱり、何でもない」とその袋を引っ込めようとした。が、平太が慌ててその手を掴んだ。
「そんな可愛いこと言われたら、着ない訳にはいかないじゃないですか。去年まで着てたコート、身長伸びちゃって着れなくてこのチェスターコートしかなかったので嬉しいです。ありがとうございます」
そう言って袋を受け取ると、俺の髪をさらりと撫でて微笑んだ。その微笑みがかっこよくて、顔が熱くなる。顔真っ赤ですね、と笑われて、さらに熱くなった。
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