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4これからのこと

 平太の行きたいところを聞いたが、まだ早いと言ったため、近くの店をウインドウショッピングすることになった。もうこんなことができないと思っていたから、些細なことが楽しくて嬉しかった。 「――そろそろいいかな。俺の行きたいところ、着いてきてください」  何軒目かでようやく平太は顔を空にやり、呟いた。それから、駅へと向かっていった。 「……すごい」 「すごいですよね? 真空さんと一緒に来たかったんです。友達と一緒に来た時に、ここに真空さんと来れたらいいのにってずっと思ってました。来られてよかったです」  電車に何分か揺られ、着いた先は入場無料の遊園地だった。何でまだ早いと言い続けていたのか分からなかったが――着いた瞬間、理解した。  そこはイルミネーションが綺麗だったのだ。キラキラと光る七色のトンネルに、色々な色で輝いている建物、……暗い空と対照的に明るく照らし出された幻想的な光はあまりにも綺麗だった。 「まあ、真空さんは普段からもっとすごいイルミネーションを見てるのかもしれないですけど。それこそ海外とか」 「……いや、こんなに綺麗なイルミネーションは初めてだ」  言われてみれば、スケールだけならもっとすごいものはいくつも見てきた。だけどそのどれよりも、このイルミネーションは綺麗だった。何故だろう、と考えて、輝きに照らされる平太の笑顔を見て、すぐに分かった。――そんなの当たり前だ、平太が隣にいるんだから。 「ならよかった。……ここはこんなもんじゃないですよ、奥に行きましょう、奥のイルミネーションの方がすごいです」  平太にそう手を引かれて、寒くてかじかみそうだったはずの手が、温かくなった。 「本当だ……綺麗だな、平太!」  胸が詰まるくらい幸せで、目に入る景色全てが幻想みたいに美しくて、年甲斐もなくはしゃいだような声を上げてしまった。平太は慈しむように笑って、そうですね、と答えた。  自分は誰よりも幸せだと思う。こんなに幸せでいいのかと空恐ろしくなるほどに幸せだ。だって、こんなに好きな相手がいて、一緒に誕生日を過ごせるのだ。最高の誕生日だ。プレゼントなんて何もなくても、平太がいるだけで幸せだ。 「あ、あれ乗りましょう、真空さん」  平太が指差したのは、観覧車だった。平太は遊園地に行った時は必ず、観覧車に乗ろうと言っている気がする。好きなんだろう。  頷くと、平太は嬉しそうにそっちに歩いて行った。  入場無料なせいか、他の遊園地と比べて観覧車一回乗る値段がかなり高かった。なので、払うと言い張った平太を制して俺が二人分出した。  光の粒が少しずつ小さくなっていって、遊園地の喧騒が少しずつ現実味を失っていく。少しずつ二人だけの空間になっていく。 「真空さん。これからのことなんですけど」平太が真剣な声色で切り出したので、平太に向き直って、何だと問いかけた。 「映画を見た時にも言ったんですけど、不安になることとか、嫌だと思ったこととか、そういうことは極力すぐ言ってほしいです。今度は絶対、すれ違いたくないので。……育った環境も価値観も全然違うから、もしかしたら喧嘩になっちゃうかもしれないですけど、全部ちゃんと乗り越えたいです。別れた時は本当に辛かった、食べ物もろくに喉を通らなくて――もうあんな思いは二度としたくないんです」 「……分かった。じゃあ平太も、一人で抱え込むのはやめてほしい。平太は気を回し過ぎて、俺が逆に勘違いすることがあるから」 「分かりました。約束ですよ」 「ああ」  真剣な表情で頷き合って、それからどちらからともなく笑ってしまった。 「それからもう一つ、言いたいことがあるんです」  平太は一度深呼吸をして、真っ直ぐに伝えてきた。 「覚えてるか分かりませんが、前にお互い大学生になったら一緒に暮らそうっていう話、俺、本気です。こんなに好きな人は後にも先にも真空さんただ一人です。愛してます真空さん」  忘れるはずない。あんなに嬉しかったこと、忘れるはずがない。誠実で真っ直ぐな愛の告白に、胸が溢れた。鼻の奥がつんとした。  俺は何度も頷いた。それから俺も愛してる、と伝えようとした。だけどそれよりも先に、平太が座席を立ち上がって瞳を閉じて俺の後頭部に手をやり、俺の顔に顔を近付けてきた。何がしたいか察して、俺も瞳を閉じた。  唇が重なる。その口付けは蕩けそうなほどに甘くて、切ないくらいに幸せだった。

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