250 / 373
6これからのこと
夕飯を食べ終わり、平太と並んでソファに座り、テレビを見ていた。平太の家の風呂を借りたからか、髪から慣れない爽やかな香りがする。
その空間が心地良くて、少しうとうととしかけてしまう。その様子を見てか、平太は俺に囁いた。
「真空さん、俺、見たいビデオがあるんですけどいいですか?」
「ビデオ? ……構わんが、何のだ?」
平太は、ふふ、と悪戯っぽい笑顔を浮かべて言った。
「昔真空さんを撮ったビデオです」
俺を撮ったビデオとは何だろう。いつそんなビデオを撮っただろうか。必死に記憶を遡る。
しかし、平太が持ってきたビデオカメラを見て、ふっと記憶が蘇った。嫌な予感がする。俺の記憶が間違っていなければ、それは――
「待て、平太、やっぱり、見たくない……」
「何でですか? 見ましょうよ、せっかく撮ったのにまだ真空さんは見れてないじゃないですか」
平太が悪戯っぽい、いや、底意地の悪い笑顔で言うのを見て、確信に変わった。
それはきっと、平太が風邪で休んで俺がお見舞いに行った時の、ビデオだ。そしてつまり、何を撮っているのかというと――
平太はビデオを操作してテレビに繋げ、再生させてから、逃げようとする俺の腕を掴み寄せて、拘束するように肩を抱いた。
――それは、俺と平太が放置プレイをした時に録画していたビデオだった。
テレビの大画面に、ベッドに拘束されて首輪を付けられ、ローターを挿れられて悶える俺の醜態が映し出される。恥ずかしくて、穴があったら入りたい。逃げたい。でも逃げたくても肩を抱かれているので逃げられない。俺は必死に、顔を背けて見ないようにした。
「見てくださいよ、いやらしい真空さんの姿……こんなことされて悦んでて、本当にいやらしいですよ」
「見れない……見れるかこんなもの……」
恥ずかしくて堪らなくて思わず呟く。すると「今何て言いました?」と平太が低く問いかけた。失言に気付いて慌てて平太を見ると、平太は薄く口元を吊り上げて俺を見ていた。
「随分と偉そうな物言いですね? 誰に向かってそんなこと言ってるんですか? そんなこと言える立場でしたっけ?」
目の笑っていない薄い笑みで、平太は軽くじわじわと首を絞めてきた。ゾクン、と痺れるような快感が走る。堪らない、蔑まれるのも息苦しいのも、堪らなく快感だ。
「か、はっ……すみ、ません、ごしゅじ、さまぁ……めすいぬの、ぶんざいでぇ……えらそ、で、すみませんっ……」
口にすると余計、快感が増した。頭の中が快楽と平太でいっばいになる。もっと、もっと蔑んで苦しませて支配してほしい。
「分かればいいんです。じゃあほら、ちゃんと見て」
平太は首から手を離すと、俺が呼吸を整える暇もなく無理やり顔をテレビに向けさせた。酸素不足で頭がくらくらする。
首を絞められただけで、スイッチが入ってしまったみたいだ。さっきまで羞恥のあまり顔を背けたくて仕方がなかったのに、今はこんな醜態を無理やり見せられていることに興奮する。平太が楽しそうに見ていることにも興奮する。
「ちょっと首絞められただけで随分と態度が変わりますね。今じゃただの、俺の雌犬だ」
くすりと平太が笑う。その笑いの冷たい響きにも、見下すような視線を向けられているのにも、興奮してしまった。やらしい欲望が、我慢ができないくらいに溢れ出す。既に下半身が、熱を持ってきた。
画面の中の俺が、快感に体をくねらせながら必死に声を抑えている。確かこの時は、隣の部屋に平太と平太の友達がいたんだったか。
見れば見るほど、信じられない気持ちになってくる。普段俺はこんな淫らな顔をしているのか。これじゃ本当に――本当にただの雌犬だ。
ともだちにシェアしよう!