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2再会は突然に
彼はそれを聞いて、ふっと笑った。それから口を開いて――
「やっだなぁ、男子校に来てんのに女な訳ないじゃーん。俺ちゃんとついてるよ? なんなら確認するっ?」
急にハイテンションで喋り出して、俺はあっけに取られてしまった。見た目と声から、清楚な感じかと思っていたのに。
「確認ってどういうこと?」
他のやつも皆どう反応していいか分からない様子だったのに、和泉は通常通り訊き返した。
「え? そりゃ、連れションしようってこと」
「い、いや! 女の子とトイレに行くのはさすがに……」
「だーかーら、俺はれっきとした男なの。ずっとそう言ってんじゃん」
「本当に?」
「本当に」
そっか、と頷く和泉に、夏目はそうだよ、と頷き返した。真剣な顔で頷き合う二人が何だか面白くて、俺は笑ってしまった。俺につられたのか、周りも笑い出した。
転校生は見かけによらず、面白い人みたいだ。
「じゃあ夏目くん、そこの席に座っ――」
「――すみません遅れました!」
先生が促そうとした時、唐突に教室の後ろのドアが開いた。後ろを振り向くとそこには、肩で息をする平太がいた。
「平太ぁ、お前どうしたの」
「俺昨日言っただろ? 掃除してたら懐かしいゲーム見つけたって。それやってたらさ、いつの間にか日付とっくに回ってて、オールするか寝るか迷って結局寝たら、思いっ切り寝坊した」
「馬鹿かお前」
「俺も本当に馬鹿だと思う……よりにもよって今日始業式だし……」
平太は言いながら自分の座るべき席を探し――教卓の前に立つ夏目を見て、ぽかんと口を開けた。
そりゃ驚くだろう、あんな可愛い男がいたら――そう思っていたが、平太の反応から考えると、どうやら違うみたいだった。
平太は、ふらふらと教卓の方へ歩み寄り、おもむろに夏目の前に立った。夏目を見ると、同様にあっけに取られた顔をしていた。その異様な雰囲気に、教室はまた静まり返った。
「……雫?」
「……平太?」
二人は同時に恐る恐る尋ねると、また黙って見つめ合った。教室内にまた、静寂が訪れた。
二人は同時に口を開き、……同時に笑顔になった。
「平太ーっ! 何で? お前何でここにいんのっ?」
「それはこっちの台詞だ! 何で? 転校生? そもそもお前、何でこっちに戻ってきたんだよ!」
「色々あってさ、後で話す。ていうか平太! お前男子校とか行くガラだっけ? ええーっ、ここで再会するとかマジ運命的だろ!」
ひとしきり言い合うと、二人は満面の笑みで「久しぶり」と頷き合った。
「平太くん、どういう知り合い?」
和泉の問いかけに、平太は振り向いて、答えた。本当に嬉しそうな、先輩関連のことでしか見たことがないくらいの、輝いた笑顔だった。
「俺の幼馴染なんだ」
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