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9彼は君とどこか似ている

「……あの……小深山、先輩」  人気のない公園まで来て、小深山先輩は立ち止まった。俺は顔を上げられなかった。 「君さ、援交してたんだね」  頭上から小深山先輩の声が降ってくる。軽蔑されるだろう、そう思って俺はますます俯いた。 「――お金がないの?」  まさかそう問われるとは思っていなくて、「え?」と俺は顔を上げた。 「お金がないなら何もこんなことしなくても、他のやり方はいくらでもあるでしょ。うちの学園はそれなりに奨学金の種類があるんだし、いくつか申請すれば学費の負担はかなり軽くなるはず。それでも辛いなら僕が特別に学費の免除を取り計らうことだってできる。それから生活費が不安だっていうなら――」  滔々と説明する小深山先輩。俺は慌てて遮った。 「ま、待ってください、お金なら大丈夫です! ちゃんとありますから」  しかし何を思ったのか「大丈夫だよ」と小深山先輩は続けた。 「僕は給食を廃止にしたり制服を変えたり生徒指導をなくしたり、他にも色々好き勝手なことをやってきたから、今更一人の生徒の学費を免除したところで何も言われないし気兼ねすることはないよ」 「そうじゃなくて……」  ――言えるはずがない。孤独を嫌って体を売っている、なんてこと。 「ならどうして? 何か他に理由でも……もしかして、ただ単にそういうことが好きなだけ?」  そういうことが好き、なんて、嘘でも言いたくなかった。これしか寂しさを埋める方法がなくて、自分が必要とされる方法がなくて、仕方なく取っている手段を『好き』だなんて。  だけどそう言うのが一番楽だ、ということは分かっていたから、俺はすぐにへらりと笑った。 「そうなんすよ、俺実はセックスが好きで、んでどうせするならお金もらえた方が得かなぁって」 「嘘でしょ、それ」  間髪を入れずに小深山先輩が言う。見抜かれたことに動揺して、目を見開いてしまう。でも誤魔化そうと俺はすぐに笑顔を浮かべた。 「やだな、嘘じゃないですよぉ。幻滅しました? セックス狂いってのが本当の俺で。……変に気遣わせちゃってすいません、でも俺は大丈夫なんで、」 「それも嘘だ。……違う?」  違いますって、俺は必死に笑顔を浮かべ続けた。大丈夫、いつも通りちゃんと笑えているはずだ。  小深山先輩はしばらく考えるように黙ると、ふと、真剣な表情で俺の目を見た。 「……話なら聞くから。援交なんてしたら絶対、悲しむ人がいる。だから、そんなこと――」 「いないっすよ、そんなん。そんな風に思ってくれる人なんて、きっと誰も」  軽く笑い飛ばそうとしたが、声が少し震えた。  俺にそんな人、いるはずがない。俺みたいな価値のない人間なんて、誰も愛さない。それはよく分かっていた、今まで生きてきて、嫌という程痛感させられてきた事実だ。  しかし小深山先輩は――「そんなことない!」と強く否定してきた。 「少なくとも僕は、君がこんなことしてると悲しいよ。……強がってるでしょ、夏目くん。だって、さっき浮かべた笑顔とkenjiの話をしてる時の笑顔、違うから。今の夏目くんは心から笑ってない感じがする。だから見てて心配になるんだ」

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