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10彼は君とどこか似ている

 心配――なんて、初めて言われた。 誰も俺にそんなことを言ってくれないとばかり思っていたのに。 「……しん、ぱい……?」 「うん、心配だ。夏目くんとは趣味が合うしもっと親しくしたいと思ってるから、君が傷付いている姿を見るのは嫌だ。それに君は、強がり方が真空と似てるから、余計心配になる。……明塚くんに吐けるならそれでもいいけど、明塚くんに言いにくいことで苦しんでることがあれば、聞くよ」 「……しんぱい……心配……」  心配、って、こんなにも温かい言葉だったのか。こんなにまっすぐ気遣ってくれる人なんて、初めてだった。その響きがあまりにも優しくて、温かくて、思わず涙が滲んだ。 「……俺は、一人ぼっちじゃないんですか」  問うと、小深山先輩は当たり前のように答えた。 「――何言ってるの、君の周りにはいつだって人がいるでしょ。会長とか加賀美くんとか、明塚くんだっている。それに今は、僕がいる」  今までずっと苦しかった。誰かに必要としてほしかった。こんな自分じゃ駄目なんだ、自分には体しか価値がない、どうせ自分は、どうせ……そうやって自分を卑下して責めるのは、もう限界だった。だから誰かに認めてほしかったのだ。君は一人ぼっちじゃないから、って。  気付いたら、涙が溢れていた。誰かの前で泣くなんて、しばらくなかった。泣かないと決めていた。だから、中一の頃、平太の前で泣いたっきりだった。なのにどうして。 「何で、俺、泣いて――」  その先は続けられなかった。小深山先輩が不意に黙って俺のことを抱きしめてきたからだ。 「大丈夫、大丈夫だよ――。僕に何でも言っていいよ、それで君が楽になるなら」  何でこんな俺なんかに、そんな後ろ向きな疑問すらも抱擁するような温かい言葉だった。親にもこういう風に抱きしめられたことがなくて――胸がいっぱいになった。愛されるって、こんな気分なのかもしれない、そんな部相応なことすら思ってしまった。  そんな温かさに負けて、俺は気付けば泣きながら、苦しい胸の内を吐露していた。 「俺っ……寂しくてっ……誰にも必要とされないの、辛くて、苦しくて……セックスしてる時だけ、必要とされてる、って……感じるから、やめられなくて……でも本当は、セックスなんか、じゃなくて……本当はっ……! ……大丈夫だよ、って、誰かに、言われたかっただけ、なんです……大丈夫、君は……ここにいて、いいんだよ、って……っ!」  小深山先輩はそれを聞いて、こう言った。優しい声色だった。 「ここにいてもいい、なんて、許可を得るまでもないじゃないか。そんな許可を得るまでもなく、君の居場所はちゃんとある。それは、遠くから見てる僕でも分かるよ。だから……だから、大丈夫だ」  今までどんな時でも辛い気持ちを飲み込んで、涙を堪えて笑っていたせいだろうか、一度泣き出したら止まらなくて、俺は子供みたいに泣きじゃくった。

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