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1鈍感×鈍感
「……すごいよね、あの四人」
和泉が窓の外のベンチを眺めて、笑った。
「本当だよなー……」
雫と小深山先輩が付き合い始めてからというものの、気付いたら平太と雫と前園先輩と小深山先輩の四人で、頻繁に昼ご飯を食べるようになっていた。平太と雫、前園先輩と小深山先輩がお互いに幼馴染であるのも理由の一つだろうか。
平太曰く、一緒に食べ始めた最初のうちは、平太と小深山先輩が少しぎくしゃくしていたそうだが、それもすぐに解消されたという。何にせよ、強烈に仲の悪かった平太と小深山先輩が和解したのはいいことだと思う。
平太と雫がその四人で食べるようになってから、必然的に俺と和泉の二人の時間が増えた。正直、とても嬉しい。そう思っていたのはすぐに平太にバレて、よかったじゃねえか渉? とにやにやされたのでとりあえず殴っておいた。雫も察しがいいのかそれとも俺が分かりやすいのか、雫までにやにやしていた。
それはそれとして、あの四人が同じ場所にいると、オーラが違う。圧倒される。なんせ四人とも相当な美形だ。
そのうち二人は御曹司だし、あとの二人は芸能界にいても何らおかしくない。平太はもちろん雫も、「そういえばスカウトされたことあったっけなぁ。もったいないから名刺はとっといてあるよーっ、ええっと……ほら!」と何枚もの紙を見せてきたことがある。疎い俺でも聞いたことのある事務所ばかりだった。
おそらく和泉の言った「すごい」とはそういうことだろう。確かに、すごい。すごいなんて言葉じゃ表せないくらい。あの空間だけ漫画の世界だ。
元々この学園は、男同士の恋愛を容認するどころか、それを積極的に見たがる生徒が多いが、あの四人が一緒にいる時間が増えてから、ますますその人数が増えた……と、写真部の友達の隼人が自慢気に語っていた。いわゆる『腐男子』というものらしい。
そのおかげで、自分たちの写真の売れ行きが絶好調だと言っていた。写真といっても、体育祭や文化祭で撮った人気のある生徒の写真や、舞台祭で撮った動画からトリミングした写真だ。それを勝手に売買しているのだ。倫理的にどうなのかと思うが、「バレなきゃ大丈夫」なんだそうだ。……多分、平太や雫や和泉は知らなくていい世界だろう。被写体の側だから。
自分で言うのもなんだが、人脈がそれなりに広いので、その分だけ「裏側」を知ってしまっている。元々噂話が好きで色々知ろうとしていたら、いつの間にか広がっていたのだ。色んなところから情報が入ってくるし、平太や雫や先輩のことは直に聞くので、もしかしたら、俺が一番情報通かもしれない。
――とは思っていたが、まさかこんなことを言われるとは、思ってもみなかった。
「隼人ー、漫画」
写真部の部室の扉を開けてそう声を投げかけると「頼み方が雑なんだよお前は!」と言いながらも漫画を投げてきた。この前読んでたシリーズの次の巻をきっちり投げてきて、マメなやつだな、と俺は笑ってしまった。
隼人とは中学の時に同じクラスになって仲良くなり、その後もクラスは離れたが緩く繋がっているためか、写真部の部室に勝手に出入りしても嫌な顔一つされない。なんせ隼人が写真部の部長だからだ。
和泉がバイトの日と生徒会の日は一緒に帰れないので、そういう日は大体写真部に入り浸って時間を潰す。家にすぐ帰っても、勉強しろと言われるだけだから。
写真部、といっても侮るなかれ。うちの学園は運動部ではテニス部、文化部では演劇部が強豪だが、その二つの部活の次に部員数が多い。テニス部と演劇部どちらとも、全国に行ったことがあるとかないとか。そんな部活の次に並ぶくらい、写真部は人数が多いのだ。
ならそんなたくさんの部員でどんな活動をしているのかというと――少し、いかがわしいことだ。
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