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2鈍感×鈍感
「――おっまえなぁ! 真空くんが受けな訳ないだろ! あんっなに完璧なスパダリのどーこが受けなんだ! 言ってみろ!」
「はあぁ!? 先輩こそ何言ってるんすか! どこからどうみても受けじゃないすか! 平太くんといる時の真空先輩のデレッデレした姿! 去年の体育祭の借り物競走を俺は忘れない……っ! てか、逆にどこをどう見たら攻めになるんすか!」
三年生の生徒と二年生の生徒が言い争いを始めた。写真部にはよくあることだ。彼らにとって、どちらが受けでどちらが攻めで、というのは非常に重要な話らしい。
あの二人の真実を知っている俺は、苦笑いするしかない。そういえばつい最近、平太に遊びに誘われて家に行ったらまさに盛っている二人がいたっけ。それを見てUターンしようとしたら、俺は問答無用で平太に携帯を押し付けられて、終わるまで動画を撮りながら見てろと言われたのだ。
それの内容は、ドン引きするほど濃密だった。クールでかっこいい前園先輩像が、見事なまでに崩れ落ちた。できればもう二度と巻き込まないでもらいたい。
そんなことをぼんやりと思い出しながら漫画を読んでいると、その二人がすごい勢いで詰め寄ってきた。
「どっちが正解だ!? 本当はどっちが受けなんだ!?」
先輩の方が勢いよく尋ねてくる。言えるはずもなく、俺は顔を引きつらせてお茶を濁した。
「あー……真実は知らない方が楽しめるんじゃないですか。そもそも妄想なんだから、お互い好きに考えたらよくないですか?」
「それも……」
「そうすね……」
二人はお互いに頷き合い、機嫌よく向こうに歩いて行った。適当に返したのに、どうして今ので解決したかが分からない。俺は肩を竦めて、漫画に戻った。
「地雷論争を上手く解決したな、渉! ……ところで実際、どっちが本当なんだ?」
隼人が興味津々に尋ねてくる。写真部を束ねているくらいだ、こいつも相当男同士の恋愛が好きだ。隼人なら誰にも口外せず自分一人で楽しむということが分かっていたので、俺は隼人にこうぼやいた。
「あの平太が受けなはずねーじゃん。天地がひっくり返っても平太が男に抱かれるなんてありえねーよ」
「……そんなにかっ……そんなに平太くん……スーパー攻め様かよッ……」
隼人は顔を手で覆って苦しそうな声を出した。隼人のこういうところはよく分からない。分からないし、理解したくもない。
しばらく悶えた後、隼人はふうと一息吐いて、悟ったような表情になりながら言った。
「そういえば、渉のことを探してる後輩がいたぞ? 『渉先輩いますか!』って写真部に入ってきては、『いないですか……また来ますね……』って去っていく高一の後輩が」
「それはそうと賢者モードみたいな顔やめろよ隼人。気になって仕方ない」
「賢者モード……言い得て妙だな。確かに俺は脳内で既に射精した」
「自重しろこのド変態」そう突っ込んでから、俺はさっきの隼人の言葉を考え直した。「何だろうなそれ……俺、別にそんな知り合いいねーし、平太とか和泉とかと違って俺に憧れるような後輩もいねーだろうし」
噂をすれば、というやつだろうか。ちょうどその時、写真部の部室の扉が開いた。
「あのっ、渉先輩はいますか?」
これが例の後輩かと思いながら「俺が……渉だけど」と彼の方を向くと、彼はきらっきらした顔で俺の方へ駆け寄ってきた。
「渉せんぱーいっ! 本当に渉先輩だぁ……! あ、あのっ、会えて嬉しいですっ」
「うおっ、何だいきなり。俺とお前知り合いだっけ?」
彼はかぶりを振って、それから俺の手を両手で包み込むように握って、顔をぐっと近付けてきた。
「知り合いじゃないですけど……ボクっ、渉先輩が憧れなんですっ!」
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