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9鈍感×鈍感

 それを平太くんに問いかけると、平太くんは苦い顔になった。 「それ俺に聞く? ああいや、迷惑とかじゃねえけど……雫はどう思う?」 「えっ俺? 無茶ぶりだなぁ……うーん……」  やっぱり答えづらい質問だったか、と思ってその質問を引っ込めようとした時、平太くんはこう尋ねた。 「……和泉は、あの後輩に渉をとられるかも、って思ったら嫌だったんだろ? それから、渉には自分だけを見ててほしいって思うだろ?」 「なんで分かるの?」  僕は平太くんに「僕、渉くんのことが好きなのかなぁ」と尋ねただけなのに、こうも感じていたことを当てられるとは思っていなかった。 「なんで分かるのって、お前らすっげー分かりやすいじゃん? そりゃー分かるわ」 「お前『ら』?」  雫くんの言葉に首を傾げると、馬鹿野郎、と平太くんが雫くんをどついた。それから、「いや、何でもねえよ、和泉は気にしなくていいから」と半笑いで弁解した。一体何を気にしなくていいというのか。 「……まあとにかく、そう思ってるんなら十中八九恋……だと俺は思うけどな。こればっかりはお前自身じゃないと分かんねえだろ」 「ううん……そうなのかな……でもそうだとしてさ、渉くんって好きな人、いるの?」  聞くと、平太くんと雫くんは、同時に思い切り苦い顔になった。もしかして、いるんだろうか。好きになる前に失恋してしまうんだろうか。 「……いるの?」 「いる、っていうか……なあ?」 「ちょ、俺に振るっ? ええと、いるっていうかなんていうか……」  僕のために必死に誤魔化そうとしているんだろうか。そうだとしたら、僕はどうすればいいんだろう。好きにならない方がいいんだろうか。 「……いや、いない。いないから大丈夫。ていうか和泉なら渉は嫌な気しねえだろうし、むしろすげえ喜ぶと思うし、だからええと……二人きりで遊びに誘ってみれば? たとえば、海とか」 「……本当? 嫌がられないかな……?」 「ないないないっ、渉に限ってそれは絶対ないから! 俺が保証するっ!」  平太くんと雫くんは、やけに力を込めて否定した。僕を勇気付けようとしてくれているのか。少し嬉しくなった。 「何だ? 随分と盛り上がってんじゃねーか。俺抜きで何話してたんだよ」  そんな中、渉くんが戻ってきた。渉くんは、昨日提出し忘れた宿題を先生に提出しに行ってたのだ。 「おーお帰り。大したことじゃねえよ。それより怒られた?」 「いやー? 意外とすんなり済んだぜ? それより阿部ちゃんが職員室にも社会科準備室にもいなくてさー、探す方が大変だった」 「――渉くん、あのさ!」  思い立った時に言おうと、僕は渉くんに声をかけた。「ん? どうした?」と渉くんが僕を見てから、僕は渉くんに言った。 「夏休み、一緒に海に行かない?」 「は?」渉くんは唖然とした顔になり、それから慌てて笑顔を作った。「あ、ああ、そういうことか。四人で、海に行こうってことな。びっくりした。もちろんいいぜ、いつ行く?」 「四人じゃなくて、二人がいいんだけど……駄目?」 「ふた……二人? 二人、って、俺と和泉の二人ってこと……だよな? ……は? いやいや待って、えっと……マジで?」  渉くんはやけに慌てている。やっぱり迷惑だったか、それとも僕と二人、なんて嫌だったか。 「迷惑だったらいいんだけど――」 「ち、違う違う! 迷惑な訳あるか! めちゃくちゃ嬉しい! でも、本当に俺と二人でいいのかよ?」 「うん。僕は渉くんとがいいんだ」  そう言うと渉くんは、ぱあっと笑顔になった。太陽みたいな明るい笑顔に、胸が少し苦しくなった。 「行こう! いつ行く? 今日でもいいし明日でもいいし、何なら毎日だっていいぜ!」  食い気味の渉くんに驚いて、それから嬉しくなった。前向きに考えてくれて、よかった。平太くんと雫くんの言う通りだった。渉くんは嫌がったりしなかった。 「うーん、いつにする?」  僕と渉くんはそう話し始めた。すると、平太くんと雫くんが面白がるように、それからなぜだか嬉しそうに笑っていた。

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