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5ずっと一緒になんて

 しばらく、空が暗くなるまで二人で渚に座って海を眺めていた。そして不意に真空さんが立ち上がって、戻るか、と言った。 「そうですね。……あ、俺そういえば、花火持ってきてるんですよ。やります?」  立ち上がりながら言うと、真空さんはきょとんとした顔になった。 「花火? 平太、打ち上げられるのか?」 「嫌だな、打ち上げ花火じゃないですよ。手持ち花火です」  苦笑するが、真空さんはきょとんとしたまま。 「手に持つ花火があるのか?」 「……もしかして真空さん、やったことありませんか? 線香花火とかも?」 「ああ……聞いたことがある」  その曖昧な返答を聞いて、俺はびっくりしてしまった。それから、こういう庶民的な遊びはほとんどしてこなかったんだろうと思った。だって俺と付き合うまで、まともに遊園地も水族館も行ったことのなかったような人だ、手持ち花火をしたことがなくても無理はない。 「じゃあ俺とが初めてってことですね。何か嬉しいです。持ってきますね、ちょっと待っててください」  俺がそう言うと、真空さんはこくんと頷いた。  真ん中に火のついたろうそくを立てて手持ち花火のパッケージを開けると、真空さんはきょとんとした顔でそれを眺めていた。そして手持ち花火を手渡し戸惑う真空さんに「ここに火をつけるんです」と言いながら、俺が持った一つの花火に火をつけてみせた。  オレンジ色の閃光が闇に包まれた海辺を照らし出す。真空さんは「うわっ」と驚いたのち、花火に負けず劣らず輝いた瞳でそれを眺めた。小さな子供みたいだ。 「……すごいな、これが手持ち花火か」 「そうです。綺麗ですよね。花火によって色とか光り方とかが違うんです。それで終わったら」俺は花火の燃えかすを水を入れたバケツの中に入れながら言った。「ここに、入れておいてください」 「分かった。……ところでこれ、高かったんじゃないか? 大丈夫か?」  俺が何かを買う度に、真空さんは必ず心配してくる。それが真空さんなりの気遣いであることが分かっていたから、俺は笑ってかぶりを振った。 「全然。確か……五百円もしなかったです」 「そんなに安いのか? すごいな、こんなものがあったなんて……」  本気で感心したように花火を眺める真空さん。どうして真空さんは、俺の前で見せる顔がこんなに可愛いんだろう。真空さんのそのきらきらした瞳は、いつまでも眺めていられそうだ。  真空さんはしばらくパッケージを眺めていたが、やがて一本を手に取り、俺の顔を笑顔で見つめた。 「やっていいか?」 「もちろん。そのために買ったんですから」  真空さんはおずおずと花火の先に火をつけ、華やかな音を立てて火花を散らし始めたのを見て、さらに顔を輝かせた。 「すごいな、平太!」無邪気に笑って俺を振り向いて、ふと気付いたのか頬を染めた。「あー……すまん。子供みたいでみっともないな」 「そんなことないですよ。すごく可愛いです。俺、真空さんのそういうところすごく好きですよ」  考えるより先に言葉が滑り出していた。それくらい可愛かった。すると真空さんはさらに頬を染めた。  真空さんは一つ一つの花火でいちいち感動して、無邪気に喜んでいた。俺は花火をするより花火をしている真空さんを見ている方がずっと楽しかったので、真空さんを眺めていた。結局、持ってきた花火のほとんどは真空さんが消費したと思う。  だけど一番驚いていたのは、線香花火だった。ぱちぱちと花のような火花が少しずつ大きくなって、それからだんだん弱くなって、最後に丸い火花がぽとりと落ちるのを、真空さんは不思議そうに眺めていた。  そして最後の一つになって、真空さんは俺を伺いつつも、俺が笑顔で促すと、おずおずとそれに手を出して、火をつけた。繊細な火花が散っていく様子を、俺と真空さんは黙って眺めていた。これで終わってしまうのは、少し寂しい気がする。  そんなことを思いながら真空さんを見ると、真空さんは楽しそうな顔でそれを眺めていたが、終わりに近付いたその時、突然、本当に突然、ふっと真顔になった。その瞳は花火を見つめつつも、何か別のものを見ているようだった。  真空さんは、火花が落ちた後もしばらくそれを眺めていた。もう見るものなんてないはずなのに、それでも眺めていた。 「……真空さん?」  真空さんは口を開いた。だがそのすぐ後に閉じて、それからまた開けて、と何かを言いあぐねているようだった。俺は黙って何かを言い出すのを待っていた。 「……俺、ええと……平太にずっと、隠してることがあったんだ」  真空さんはやがて、そう口火を切った。俺の方を見ずに、もう燃えかすとなった花火を見つめながら。 「隠してる、こと?」 「ああ。……隠してるつもりはなくて、ただ本気じゃないと思って、だから言う必要がないと思ってて……でも最近になって、いきなり話が進んで、それで……」 「前置きはいいですから。何ですか?」  真空さんは唇を噛んだ。それからまたしばらく黙り、そしてようやく、再度口を開いた。

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