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4責任とって踏んでくれ

「真空、今日も屋上に行くの?」  昼休み、ベンチの上で俺の腕に抱きつきながら、少し不機嫌そうな顔で伊織が尋ねる。  甘えたがりな人間を子猫のようだと言うことがあるが、俺と一緒にいる時の伊織はまさにそれだ。風紀委員長らしさの欠片もない。 「悪いか?」  聞くと、伊織は「別に悪くないけど」と口を尖らせた。 「でもさ、屋上で一人で何してるの?」  それを聞いて、心臓が嫌に高鳴る。――いつかは聞かれると思っていた。さて、どう誤魔化すか。 「……別に。一人になれる場所が家にないから欲しいだけだ」  そう苦し紛れに誤魔化すと、伊織は得心したように頷いた。 「そっか、そうだよね、真空の家ってお手伝いさんいるもんね」  自分でも苦しい言い訳かと思ったが、伊織が納得したのならよかった。 「僕は一人になれる場所はいらないな。真空がいればいいや」  へらっと笑う伊織。反応に困って、とりあえず俺は「……そうか」と呟いてぽんぽんと頭を撫でておいた。  伊織は頷くと、腕に抱きついたまま頭を俺に預けた。  伊織のことはもちろん好きだ。幼い頃から思い出を共にしてきた幼馴染だ、嫌いであるはずがない。  が、甘えられるのも尽くされるのも、本当はかなり苦手だ。べたべたと甘いのは苦手だし、尽くされるよりむしろ尽くしたい。  いや、尽くすというより奉仕したい。むしろご奉仕させてほしい。『ご主人様、ご奉仕させていただきます』だなんて、一度は言ってみたい台詞だ。考えただけでどきどきする。  そんなこと、口が裂けても誰にも言えないけれど。  お前は人の上に立つ人間だ。決して他人に弱味は見せるな、常に完璧でいろ――物心ついた時からからずっと、刷り込みのように父親に言われ続けた言葉だ。  俺はずっとそれを守ってきた。守るために努力もしてきた。そしてきっと周りには、完璧だと思われている。  だからこそ、この性癖がバレてしまえば一巻の終わりだ。頭では分かっているが……やっぱり誰かに支配されたい。支配されて、蔑まれたいと思う。  屋上に一人でいたい理由、それは、口が裂けても言えない理由だ。――屋上でオナりたいから、なんて言える訳もない。  室内じゃなく外で、というシチュエーションに、誰かにバレるかもしれないというスリルがたまらない。我ながら馬鹿らしいとは思うが、病みつきになってしまったものは仕方がない。  麻縄だの鎖だの、そんなもので全身を縛られ痴態を晒している男の写真を見ながら、これが自分だったら、と想像しながら俺はそれに触れた。  ――大きく開脚させられたまま縛られて。  動くことすらままならない状態で無理やりモノを突っ込まれて。  何度も何度もイカされて。  そんな状態の自分の写真を何枚も撮られて。  それから、それから――  自然に息が上がり、ゾクゾクと快感が走る。もうすっかり勃っていて、先の方からは先走りが流れている。 「は……あぁ……」  道具のように使われたい。無理やり犯されたい。そんな衝動を恥じる気持ちすら、快感に変わってしまう。  ああ駄目だ、もうイク――  ……そのとき、「がちゃ」という聞こえるはずのない音が聞こえた。不安感と危機感で、一瞬で顔が強張る。恐る恐る振り向くとそこには、  ――オナる俺をしっかりと見た、眼鏡をかけた後輩がいた。 「……あ」  思わず、そう声が漏れた。思考が停止し、焦りによって、高揚していた気持ちが一気にどん底に落とされる。  まずい。  今まで、極力他人に弱みを見せずに完璧であろうとしていたのに。こんな姿を見られては、今までの苦労が何もかも無駄になる。  彼は唖然としたように、眼鏡の奥から俺を見つめ、しばらく黙りこくった。そして何を思ったか、恐々とこう告げた。 「……あの先輩。俺、何も見なかったことにするんで」  そう言って、彼はすぐにでもその場を立ち去る勢いで、踵を返した。  が、ここで帰す訳にはいかない、とすぐさま俺は彼の腕を掴んだ。 「……待て」  彼は強張った顔でゆっくりと振り向く。  さっきまでは見られたことに対する焦りしかなかったが、少しだけ落ち着くと今度は、猛烈な恥ずかしさが襲ってきた。  ……見られたんだ、俺。オナってるところも、自分のモノも。そして情けないことに、そのことに興奮してしまった。  俺はしゃがみこんだまま上目遣いで彼を見て、こう問うた。 「……見た、だろ」  彼は「いや、その……はい」としどろもどろに肯定した。  俺を見たということはつまり、必然的にアレも見たんだろう。そう思い、思わずエロ本に目をやる。彼もそれにつられたように、エロ本に目をやった。  それを見る彼の目を何気なく見て、俺は快感が体を貫くのを感じた。 「――っ」  彼の目は、暗い冷たさを表面に湛え、しかし嗜虐欲により輝き、熱を隠し持った目だった。  一言で簡単に言うならば、サディスティックな目だ。あまり目立たなそうな雰囲気を醸し出していたのとは全く違って、そのギャップもなおさらよかった。  もしその目で見てくれるなら、たとえどんな命令であろうと従ってしまうような気がした。それほどまでに、彼の目を俺は好きになってしまった。  その目で俺を見て欲しい。見て、罵倒して、苛めて欲しい。そんな欲求が、ふつふつと湧き上がってきた。  欲求と共に、どんどん勃起していく。それを隠すために俺は、慌ててズボンを上げた。

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