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5責任とって踏んでくれ
やがてその欲求が抑え難くなった頃、俺は声をかけた。
「お前、名前は」
彼はそれを聞いて、我に返ったように焦ったような顔で俺を見た。……声をかけずにもうしばらく見ればよかったか。少しだけそう後悔する。
「明塚、平太です」
彼はそう、恐る恐る答えた。明塚。明塚平太、か。きちんと覚えておこう。
「……そうか」
そう呟き、しばらく黙考した。名前を聞いて、次は何を言うべきなのか、と。
俺はあの目で見られながら、罵られたくて堪らない。後ろの穴まで熱を持って疼いてくるものだから、もうそろそろ我慢が効かなくなる。
けれど、なんて言えばいいのかわからない。なんて言ったら明塚は、俺のことを罵ってくれるだろう。
考えて考えて、ふと、あることを思い出した。
……俺自身が知っているだけでもそれなりに、俺が畏怖され尊敬されるような噂はあるようなのだ。あの先輩に嫌われたら終わりだ、といった感じの。
完璧であろうとはしているが、気にくわないやつをどうこうしたことはない。だが、そんな俺が頼めば後輩なら、それなりに言うことは聞いてくれるんじゃないだろうか。
ならば、直球に頼むか。
「……責任とれ」
「は?」
「……だから、知ったんだったら責任とれ」
そう言うと、明塚は顔を青ざめさせた。一体、何を考えたのか。
もう俺は、快感を得たくて堪らなくなっていた。
あの目で見られ、罵られながら踏まれたら、どんなに気持ち良いだろうか、と考えたら、それだけで興奮する。下着の中はもう、溢れた先走りでぐちゃぐちゃだった。
踏んでくれ、と頼むべく、俺は口を開けたが、実際に言うとなると、とても恥ずかしい。恥ずかしい言葉を言わされる想像は何度もしたが、実際に言うとなると恥ずかしさは段違いだ。
「……踏んでくれ」
そう呟いても、あまりにも声が小さかったのか、
「何、ですか……?」
と聞き返された。
俺はさらに恥ずかしくなったが、あえて明塚を見上げて頼んだ。頰が熱くて、火照っているのが自分でも分かる。
「――踏んで、くれないか」
言いながら、ゾクンと震えが走る。――ああ、とうとう言ってしまった。
「……踏むって、先輩を、ですか」
「ああ」
頷くと、呆然としたままそれでも、明塚はこう訊いた。
「……えっと、どこを」
どくんと心臓が高鳴る。――戸惑っているがそれでも、乗り気なのか。
それを言うと思うと、耳元にあるかのようにうるさく心臓がなる。俺は自分の下半身を指差して、言った。
「……俺のここを、踏みつけてほしい」
言い終わると同時に、ゾクゾクと快感が抜ける。駄目だ、興奮する。
「……あの、後で何か請求するとかありませんよね。あの時あんなことしたんだから、責任とって金払えとか」
あんな目をしていたくせに、どこまでも明塚は慎重だった。
俺は聞いて、すぐに否定した。
「ない。なんなら、動画を撮ってくれても構わない。むしろ、それを使ってお前が脅してくれても構わない」
言いながらそれを想像してしまい、思わず興奮して、少し顔を反らした。
脅されながら、酷いことを強いられてみたい。その上あの目で見てくれるのなら、最高だ。
「……早く」
もう我慢ができない。快感が欲しい。俺は縋るように明塚を見た。
明塚は恐々と、勃起しているものに足を乗せた。
「もっと強く……」
少し体重をかけられる。が、足りない。
「もっと……っ」
更に体重をかけられる。まだ足りない。
「もっと、頼む……っ」
俺は何度も息を吐きながら、懇願した。
わざと焦らしているのか、それとも本当に恐れているのか、どちらだかは分からない。恐らく後者だろう。
しかし、さんざん我慢した上にもどかしいほどの弱い刺激だ。むしろさらに我慢が効かなくなる。喉が渇いているときほんの少しの水を飲んでも、さらに喉が乾くだけなように。
局部だけでなく、全身が切なく疼いて堪らない。もっと、もっと欲しい。
と、突然。
「あんっ……」
暴力的なまでの快感が、痛みと共に走る。その痛みすらも気持ち良かった。思い切り踏みつけられたのだ、と気付くまでに少し時間がかかった。
そのまま二度、三度、四度、と踏みつけられた。その度に、体はビクビクと震える。
「んっ……あっ、あ……っ」
「……あは」
思わず込み上げた、といった感じで僅かに明塚が笑う。見上げると、明塚があの目で俺を見ていた。
――冷たく、しかし嗜虐欲と興奮に満ちた光を湛える、あの目で。
がくん、と全身の力が抜けるほどの快感が襲う。見られているだけで、ゾクゾクする。ああもう、イッてしまいそうだ。気持ち良くておかしくなる。
「明塚ぁっ……無理っ、イキそぉ……っ」
「踏まれるのが、そんなに気持ちいいんですか?」
明塚はそう尋ねて、踏みにじった。これはわざとだろう。だって、確かに声色に、獲物をいたぶる響きが混ざっている。
言葉攻めされた上に踏みにじられて「はあぁ……っ」と思わず声が漏れる。
「……気持ちい、すごい、気持ちいいっ……」
そう明塚の問いに答えると、そんなことを言わされている情けない自分にも、興奮した。
それを聞いて明塚は、口元を吊り上げた。あの目と相まって、怖気立つほどに嗜虐的な笑みに見えた。
その顔を見ただけで、イッてしまいそうになった。おかしくなりそうなほどの震えが背筋を走る。
「今の先輩の顔、雌犬みたいですよ」
そう言いながら、明塚は思いっ切り踏みにじった。
雌犬みたいだと罵られたこと。あの目で見られていること。今までよりももっと強く踏みにじられたこと。
――全てが重なり、頭が真っ白になる。
それが、今までに感じたことのないほどの快感だと気付くのに少し時間がかかった。気付いたら俺は達していた。
しばらく俺は余韻に浸りながら、何度も甘い吐息を吐いた。……こんなに気持ちいいのは初めてで、病みつきになってしまいそうだ。
横目で明塚の顔を伺う。野暮ったい長い前髪に、これまた野暮ったい眼鏡。気弱そうにすら見える地味な外見だが――あの目を思い出して、は、と吐息が漏れた。
思えば、この時から俺は彼に囚われてしまったのかもしれない。
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