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1ご奉仕させてくれないか

「……となります。また、この助動詞の活用系は……」  五時間目の古典の授業を半分聞き流しながら俺は、窓の外を眺めながら昨日のことを思い出していた。  昨日は驚いた。けれど俺は一度望みを叶えた。これ以上先輩の望みを叶える義理はないだろう。先輩とはあれきりだ。綺麗さっぱり忘れて、平凡な日常に戻ってやる。 『明塚ぁ……無理っ、イキそぉ……っ』  不意に、昨日の先輩の声が蘇った。かっと顔が熱くなる。  先輩が頭から焼き付いて離れない。赤みがさした頰、快楽に潤んだ瞳、熱い吐息、沸騰しそうな頭、どくどくとうるさく鳴る心臓……全てが鮮やかに思い返された。  ――やばい、これ以上はやばい。勃起してしまっているのがはっきりと分かる。先輩のことを思い出すとこうだ。今日一日、どれだけそれで苦労したか。  必死に萎えるものを想像しようとした。けれど何も思いつかない。ならばと深呼吸と精神統一で収めようとした。けれど全く意味がない。  痛いくらいに勃ってしまっている。授業なんて耳に入らない。頭の中が昨日の先輩で埋め尽くされる。  にっちもさっちもいかなくなった俺は、半ばやけくそで「先生、トイレ行ってきていいですか」と声を上げた。先生は何の疑いもせず「行ってこい」と頷いて、平然と授業に戻った。 「……ったく、何でこんな……」  トイレの個室の中で俺は思わず呟いた。こんなはずじゃなかったのに。俺は先輩に付き合わされただけ、そのはずだったのに。  俺はガチャガチャとうるさい音を立ててベルトを外してズボンを下ろした。手が少し震えていた。  先輩のような人は全然好みじゃない。男が無理なわけではないが、好んでゲイビは見ない。ましてやあんなドMなんて論外だ。だから興奮するはずがない。あんな先輩に俺まで興奮するはずが……そう言い聞かせても、欲望には抗えなかった。 「は……っ、く……はぁ……」  さっさと抜いて冷静になれば、こんな馬鹿げた思いは消えるはずだ。そうでなければ困る。  想像しようとしていないのに、先輩の姿が脳裏をよぎる。局部を踏まれただけであんなに感じてしまうなんて、たとえば……無理やり犯したら先輩はどうなってしまうだろう。その想像に煽られて、俺はさらに息が荒くなってしまった。  無理やり犯したらきっと、嫌だ、とか待ってくれ、とか言うかもしれないが、その表情は昨日みたいに蕩けているだろう。犯されることに興奮して、感じまくっていやらしい声で喘ぐだろう。それから、 「ん――っ」  昨日の、雌犬と罵倒した時に達した先輩の姿がありありと浮かんでくる。ぶわ、と射精欲が高まる。耐え切れず、俺は達してしまった。  達したことで、一気に頭が冷えた。――俺は今、何をオカズにした? 一体何を想像した? 「クソ……」  ずる、と壁に背を預けて座り込んでしまった。猛烈な後悔と少しの罪悪感と腹立たしさで、力が抜けてしまったのだ。……もう絶対、こんなことはしない。絶対先輩をオカズにしないし、絶対先輩に関わらない。俺はそう固く誓った。  ーーはずなのに。結局、来てしまった。  俺は屋上の扉の前で、そう後悔した。しばらく悶々と悩んだがしかし、どうにでもなれと言った気持ちで俺はドアノブに手をかけた。すると微かにドアの向こうから声が聞こえた気がして、俺は動きを止めた。  先輩はまた、自慰をしているんだろうか。昨日と違って俺が来ることは分かっていたようなものなのに、それでもしているとは……わざとだろうか。俺は少し呆れつつ、ドアを開けた。  ……が、そこにいた先輩は、想像の斜め上をいった姿をしていた。

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