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8ご奉仕させてくれないか

「先輩、顔赤いですね」  そう言ったらどんな反応をするのか知りたかった。すると先輩は驚いたように両頬に手をやった。 「そ、そうか? 恥ずかしい……」  そうして先輩は、視線を落とした。可愛い。先輩の動作がいちいち可愛く見える。 「先輩」と呼びかけると、先輩は恥じるような赤い顔で、俺を見た。先輩のこんな顔を知ってるのは俺だけだ。そう思うと、堪らなくなる。先輩に触れたい。そんな衝動が俺を襲う。  先輩の頰に手を触れると、先輩は驚いた顔をした後、俺の目を見つめた。その目に熱がこもっているのはきっと、俺の思い違いじゃない。  手を滑らせて少し先輩の顎をもちあげた。は、と熱い吐息が先輩から漏れる。間違いない。これは期待している目だ。……そんな目で見られたら、理性がもたない。 「先輩っ……」  衝動に任せて唇を奪った。先輩は間違いなくキスに慣れていない。それは、緊張するようにこわばった体とぎこちない動きで分かる。  しかしその緊張も、俺の舌での愛撫で解けていった。求めるように背中に手を回される。この人はどこまで、俺の理性を壊しにかかってくるのだろう。 「ふぁ……んん……ん、ふっ……」  先輩から甘い声が漏れる。ずるいくらいに色っぽい声だ。背中に回された手に力が込められるのも、俺の興奮をさらに煽る。  俺はそのまま先輩を押し倒して、さらに深くキスをした。今度は背中に爪を立てられる。 「んっ……んんっん、んぅ……!」  先輩が感じているのが手に取るように分かる。それがすごく興奮する。  十分堪能してから唇を離すと、先輩は真っ赤な顔で俺を見上げてきた。 「あかつかぁ……」  その目は快楽と期待でとろっとろに蕩けていた。求めるように背中に回された手には力がこもったまま。  ――めちゃくちゃ興奮する。背中が震えた。先輩をもっと感じさせたい。もっと感じさせて、蕩けさせて、なかせて……先輩を俺のものにしたい。先輩を抱きたい。絶対にこの人は俺のものにしたい。そんな衝動が突き抜けた。 「先輩……」  俺は先輩のネクタイに手をかけて解こうとした。「はぁっ……」と先輩は吐息を漏らした。  ――その時、不意に音がした。二人で動きを止めて耳をすます。それはどうやら、電話の着信音のようだ。  俺は先輩から離れて、自分のスマホを確認したが、誰からもかかってきていない。ならばと先輩を確認すると、先輩は俺と顔を見合わせた。 「電話だ」  どうぞ、と促すと、先輩は少しすまなそうな顔をして着信ボタンを押した。 「……もしもし、伊織?」  伊織――確か、幼馴染という小深山先輩のことか。 『真空? 今どこ?』 「どうしてだ」 『もし学校にいたら一緒に帰れないかなぁって思って』  なぜだか、胸が痛くなった。俺と先輩はただ少し体を重ねただけで、そして小深山先輩と前園先輩は呼び捨てで呼び合って、一緒に帰るような仲なのだ。それはよく、分かっていたはずなのに。 「風紀委員会は?」 『それは今終わった。真空はもう帰っちゃった?』 「いや……学校にはいるが……」 『本当? じゃあ一緒に帰ろ。今どこ? 僕そっち行くよ』 「い、いや、俺がお前の方へ行く」 『そう? 分かった、教室で待ってるねー』  そう言うと、電話が切れた。  そうして先輩は、申し訳なさそうな顔をして口を開いた。さすがに今の会話を聞いて何か口を挟むほど、野暮じゃない。俺は先輩の言葉を遮った。 「いいですよ、小深山先輩のところへ行って」 「……すまない」  先輩は軽く頭を下げて立ち上がり、それから思い出したように言った。 「鍵を閉めなきゃならないから……」 「分かりました、出ますね」 「……すまない」 「謝る必要はないですよ」  俺は苦笑して立ち上がった。

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