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6そしてプロローグに至る
「デート?」
「そ。失恋仲間同士、気紛らすために良くない?」
菫さんのその提案により、俺はそのすぐ後に菫さんとデートに行くことになった。
どうせ先輩は今頃、小深山先輩と一緒に帰って、二人で仲良く過ごしてたりなんかしてて……そう思ったら胸が締め付けられるように痛くて、この痛みが紛れるなら、と何となく了承したのだ。
さすがにこの野暮ったいバージョンで菫さんの隣に並ぶのは恥ずかしく、ちょっと制服を着崩して、眼鏡を外して髪を軽くセットはしたが。はたから見れば高校生カップルの制服デートに見えんのかな、なんて思う。
「……で、どこ行こっか」
「……どうしようね?」
俺が問いかけると、菫さんは同じように問い返してきた。二人ともノリで家を出てきたから全くのノープランだった。
「えー……特に行きたいとこない? ないならてきとーにあたしの買い物付き合ってよ」
「別に良いけど」
ぼうっとしていると下校のあのシーンが目に浮かぶ。そのシーンさえ頭の中から追い出せるなら、何でもよかった。たぶん菫さんもそうなんだろうな、と思った。
別にそういう付き合いばかりしてきたからそれは気にならない。大して好きじゃない人とデートなんて何度も行ったことがある。……だからこそ、先輩が特例すぎるのだ。
「ね、これどう?」
「あー、いいかもね。でも菫さん童顔で可愛いから、意外とちょっと大人っぽい服の方が似合うかも」
「うーんと……これとか?」
「そうそう、それ。やっぱ似合ってる。失恋を機に服装の系統変えてみるのもいいんじゃね? 今まで通り清楚系もいいけどさ、ちょっと色っぽさ出した方が菫さんの綺麗さが活かせると思うけど」
菫さんは、俺を連れて何軒か回って服を選んでいた。
今日は、極力菫さんと恋人ごっこを楽しむことにした。そうしたら、『恋に気づいた時にはすでに失恋していた』『しかも好きな相手とはただのセフレ』なんていう苦しすぎる現実から目を反らせると思ったから。
そう俺が褒めると、菫さんは少し考え込んだ。
「……やっぱ、誠人と平太くんて似てるよね」
「え? 何でいきなり」
「すごい褒め上手だから。あれあたし口説かれてる? って勘違いするくらいね」
そして菫さんはいたずらっぽく笑った。
「もし、今好きな子が諦めついたらあたしが平太くんもらってあげる。誠人以上に条件いいかもだし」
それが本気じゃないのは分かっていたから俺は「ん、検討しとく」なんて笑い返した。
これくらいの距離感が一番気軽だし、今まで俺が色んな人に築いてきた距離感だ。
だから恋なんてするはずじゃなかったのに……何でこうなっちゃったかなぁ、なんて恨みがましく心の中でつぶやいた。
「……なんか、普通にデート楽しんじゃった。ごめんね、あたしばっか楽しんじゃったかも」
「いいって、俺もだいぶ気が紛れた」
しばらく買い物に行き、その後入った喫茶店から出た後、菫さんはちょっとだけ申し訳なさそうな顔をした。でも俺も嫌な気分はしなかったのは事実だ。
菫さんは話が上手いしついでにすごく可愛い。そんな人に色々と話を聞いてもらったんだから、まあ悪い気持ちにはならない。楽しいかって言われればそこそこ、だけど。
「そう? ならいいけど。あ、でさ――」
「――おっと。大丈夫?」
菫さんは話しながら、不意にバランスを崩した。俺は慌てて優しく支えて問いかけた。
「うわ、ごめんね」
「いいって。菫さんに傷がつかなくてよかった。そんなことより足痛めてない?」
そう言いながらしゃがみ込んで足に軽く触れ、「大丈夫? 痛くない?」と問いかけた。こんなところで怪我をされたら困る。
するとどうしてか菫さんは「……あのさぁ」と少し苦い顔で言った。
「なに?」
「誠人もだけどイケメンすぎるんだよね、平太くん。あたし失恋直後で傷心中なんだからうっかり惚れちゃうよ? いーの?」
「いやそれは困るけど」
「だよねー。知ってた」
あははとおどけたように笑う菫さん。菫さんが冗談を言っているのは分かっていた。こういう場面で俺に惚れそうな人とのデートなんて、そもそもそんなヘマはしない。
「だろうね。……また転ばれても困るな。俺が駅までエスコートしてあげましょうか?」
冗談めかして気障っぽく片手を差し出すと、菫さんは「喜んで」といたずらっぽく笑って手を取った。
苦しいだけの想いより、恋人ごっこの方が楽だなぁ、なんて思う。それからこんな時ですら先輩の顔が浮かんでしまう自分が少し嫌になった。
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