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4勝手な期待と独占欲

 あれからしばらくして、五時間目の数学の授業に差し掛かった。  挿れられたローターが振動するタイミングはランダムで、全く予測ができないものだから、四六時中気にし続けなくてはならなかった。  それでもふっと忘れた頃に振動することもあって、声を押し殺すのに必死だった。  でも、何だか体を支配されているみたいで、それすらも快感だった。  一時間目が終わった後、狙いすましたように『ヌくのは禁止ですから』と連絡が来たので、ずっとムラムラしっ放しだった。  もしかしたらそれが態度なり顔なりに表れているのかもしれない。 『疲れてるの?』だの『今日おかしくね?』だの、何度も聞かれた。 「っう……」  突然ローターが振動し、声が出そうになって口を押さえた。  先生が何かを話しながら黒板に書いているのが、まったく頭に入らなかった。  弱く振動するローターが、溜まりに溜まった欲求を煽るようで、頭の中が『そういうこと』で埋め尽くされていく。  俺はただ口元を押さえ、周りにバレないよう、そして声を漏らさぬよう、必死に耐えた。 「じゃあーー三十六分だから三十六番、前園くん、答えて下さい」  ーーよりによって今当たるか。  冷や汗がだらだら流れていくのを感じる。  身動きしたらローターがナカで擦れて声が出てしまいそうで、俺は動けずにいた。 「復習だから簡単なはずですよ。有向線分を黒板の図のように表した線分ABにおいて、点A、点Bをそれぞれ何と言うか、を聞いているんですが」  脳内が振動するローターに支配され、その問いかけが右から左へと抜けていった。  いつもならすぐ理解できるのに、今は何度も反芻してようやく、理解した。 「……て、んAが、始点っ、でっ……点、Bがっ、終点、ですぅっ……」  変な声が漏れそうになるのを必死に抑えながら、答えた。  しかしどうしても、息が荒くなるのは抑えられなかった。 「……どうしました、前園くん?」  先生が訝しげに尋ねる。周りの生徒もざわめき出した。  窮地に陥って居心地が悪くなる。  しかしタチが悪いのは、そんな危機に立たされて興奮してしまう、自分の性癖だ。  ーーしかしどうする。どうやって誤魔化す、俺。  ざわめく教室の中で何とか一つ、苦肉の策を捻り出した。 「……すみませ、んっ……気分が、悪くてっ……」  先生は腑に落ちたような表情で、頷いた。 「ああ、そうでしたか。なら保健室へ行きますか?」 「行き、たいですっ……」 「どうぞ。これからは無理をしないで下さいね?」  ざわめくクラスメートを尻目に、俺はスマホを持ち、前屈みでそそくさと教室を後にした。

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