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11永遠の片思い

 泰平の前戯は、普段からは想像できないくらい丁寧で優しかった。壊れ物を扱うように優しく愛撫されて、何度も本当に愛されているかのような錯覚に陥ってしまった。 『挿れて……構わないか』 『ああ……早く、来てくれ……』  泰平は、私に軽くキスを落とすと、挿れるぞ、と囁いた。それから労わるようにゆっくりと、腰を沈めていった。 『あぁ……ん、んっ……あ、っ……』  私はそれまで、女役で寝たことはなかった。泰平を想って一人で慰めたことは数あれど、実際にそれが入るのは初めてだった。それにも関わらず、その甘い痺れで堪らなくなり、私の口は勝手に嬌声を上げていた。それは相手が、ずっと想い続けた泰平だったからだろう。 『辛くないか』 『大……丈夫だ。気持ち良いよ』  泰平が気遣わしげに問いかけた。安心させるために緩く微笑んでみせると、泰平は苦しそうに眉を寄せた。どうしたんだ、と問おうとしたその時、泰平は私の耳元で『すまん、俺がもう無理だ』と囁いた。切羽詰まった響きだった。泰平の顔を見たその時、一気に根元まで腰を沈められた。  衝撃が私を襲った。一瞬、息が止まった。それから遅れて、多幸感に似た快感が身体中を駆け巡った。一度に処理しきれないほどの快感に、私は体を震わせることしかできなかった。 『靖仁』  名前を呼ばれた。ゆるゆると顔を見上げると、泰平は微笑んでいた。男の顔をしていた。――ああ、私はあの泰平に抱かれているのか。そう再確認すると、体が切なく疼いた。  泰平、と名前を呼びながら手を伸ばすと、泰平は察してくれて、私を抱きしめた。それから、口づけをした。胸が溢れるような甘過ぎる口づけに堪らなくなって、私は泰平の背中に爪を立ててしまっていた。泰平は、私の中で質量と熱を増していった。  ようやく唇を離され、私は上手くまとまらない思考を抱え、それでも泰平、と名前を呼んだ。それから、爪を立ててしまっていることに気付き、慌てて離そうとした。だが泰平は、私の手に触れて囁いた。 『そのまま、爪を立てていて構わない。……動くぞ』  泰平は、最初はゆっくりと、徐々に激しさを増して腰を動かした。その動かし方は私へのいたわりに満ちていて、私は快楽よりも先に愛しさでいっぱいになった。今この瞬間だけは、確かに私と泰平は愛し合っていると感じた。 『泰平っ……はぁっ……好き、すき……あっ、好き……好きっ……』  今まで必死に抑えてきた気持ちが、止めようもなく溢れて止まらない。この気持ちが、今ある幸せを全て壊してしまうだろうことは分かっている。だが今だけは、泰平と愛し合っているのだと思うくらい許されるはずだ。  一緒にイこう、と泰平は私のものに触れると、扱き出した。亀頭を刺激するそのやり方は、泰平がいつもやっているやり方なんだろう、とぼんやり考えた。 『靖仁、好き……』  泰平はどんな気持ちでその言葉を口にしたのだろう。その本当の理由は分からなくてよかった。今こうして一つになって愛し合っている、という事実だけでよかった。 『はぁ……泰平、もう……っイキそう……』 『俺も……出して、いいか』  泰平の快楽に濡れた瞳が私をじっと見据えた。その色気に囚われてしまいそうだ。この瞳を私はずっと忘れないだろうと思った。 『いいよ……出して、中に……っ』  泰平は頷いて、私のものを扱く手を速めた。私は抗えない射精感に身を震わせ、泰平の背中に爪を食い込ませた。 『はぁっ、あ、イく……っ』  私が達するのに合わせて、泰平も『……っ』と私の中に出した。  息が落ち着いてきた頃に泰平は抜いて、私の体をティッシュで拭いてくれた。精液も処理しようとしたが、それは私がやる、と断った。  ほんの数日前まで百合さんと寝ていたベッドに私がいるのはどうか、と思い別の場所で寝る、と告げると泰平に引き戻されて、そこで寝ざるを得なくなった。 『今更だろ、こんなことしておいて。それに、百合とはもうしばらく一緒に寝ていなかった』 『……どっちの意味で?』 『どっちもだ。ここ数週間百合は居間に布団を敷いて寝ていたし、真空を産んでからずっとレスだった』  外から見えていたよりもずっと、夫婦間は冷え切っていたのだと思い知った。靖仁は、と問われて、私は正直に答えた。 『雅子とは同じ寝室だよ。それから、雅子と最後に寝たのは確か……一ヶ月前だったかな』  そう答えると、そうか、と泰平は呟いた。 『……靖仁』  泰平の顔を見ると、泰平は何かを言いかけた。大方、後悔の言葉か、謝罪の言葉だろう。そんな言葉は聞きたくなかった。今くらいは、夢のような感覚に浸って、そのまま眠りたい。 『泰平、君は疲れてるんだよ。私も疲れた。……だから、おやすみ』  強引に話を終わらせて、私は泰平に背を向けた。泰平は何か言いたげだったが、やがて背中の後ろで『おやすみ』と声がした。

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