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2こんな服装なんて聞いてない
雫と和泉を選んだやつは正しかったと思う。まず雫は当たり前のように着こなしているし、和泉もなかなか似合っていたのだ。
渉が作っていたので渉の趣味なのか、そのメイド服は完璧にコスプレのそれだった。スカートがふわふわしていてやたら短くて、レースやリボンがあしらわれていて、終いには白ニーハイだった。その格好でウィッグを被っていたので、女子にしか見えなかった。
「いいじゃん雫、よく似合ってるぜ」
「当たり前。俺を誰だと思ってんの。俺以上に可愛い男なんてなかなかいねぇだろ」
「うっわ、自分で言うかよそれ。つーか黒髪の姫カットって結構マニアックじゃね?」
「いや、これ選んだの俺じゃなくて渉だし。渉に言え」
最初こそ嫌そうな顔をしていたものの、雫は平然としていた。詳しいことを聞くつもりはないが、援交をやっていた時期に同じような格好をしたことがあるんだろう。そうでもなければこんなに慣れているのはおかしい。
しかし和泉はそうはいかない。和泉は顔を真っ赤にして「わ、渉くん……」と弱々しく言った。
「ちょっとスカート短すぎない? スースーして変な感じするし……うぅ」
それを見た渉はどうしたのかというと、和泉を見たまま固まった。
「……おい渉」
声をかけて揺さぶっても、渉は一言たりとも発さない。和泉が不安になって「わ、渉くん?」と問いかけてようやく、言葉を発した。
「……天使かな?」
「は?」
「いやマジで……俺の夢が叶った……」
渉はそう呆然と呟く。
「は? なに夢って」
「俺……好きな子にコスプレしてもらうの夢だったんだよね……メイドか巫女かシスターの……」
「コスプレって……相手男だけど」
「俺、和泉を好きになってからその……女装に目覚めて。あ、見る方な」
「……お前相当気持ち悪いこと言ってんの分かってる?」
俺は思わずドン引きしてしまった。気持ちは分からなくもないが、夢とまで言うのはさすがに気持ち悪い。
雫は「ま、言うほどマニアックな性癖でもないよね」と達観したように呟いていたが、和泉は以前顔を真っ赤にしたまま。
「……渉くん、僕がこの格好してるの好き?」
相当恥ずかしいだろうに、それでもそう問いかけるのは健気と言うべきか。
「好き……めっちゃ好き……」
和泉はそれを聞いて、少し考え込んだ。それから決意したように、頷いた。
「わ、分かった。じゃあ恥ずかしいけど、僕、頑張るね!」
「……可愛すぎない?」
俺の方を振り向いてそんなことを言われても、困る。確かに可愛いとは思うが、俺が可愛いと言ったらそれはそれで渉は怒るのだ。
「はいはいそうだな。てか衣装着てもらったのは最終確認のためなんだろ?」
渉はそれを忘れていたようで「そうだった」と思い出したように言った。
「和泉、雫、着てみてどう? きついよりは緩い方が何とかなるから少し大きめに作ってあるんだけど」
「ん、いい感じ」
「僕も!」
渉は頷いてから、俺にこう言った。
「あ、平太。執事服は制服と変わんねーサイズで作ったから着なくても大丈夫だよな」
「俺の扱いだけ随分と雑だな」
「お前のコスプレ姿なんてムカつくから見たくない」
「ひでえなー……」
楽しみにされていてもそれはそれで困るが。絶対に俺を褒めないのは渉らしい。
「あっ、ねえねえ平太くん! 芸能事務所入ったって本当?」
「まあ。まだ仮だけど」
「へえぇ! なんてとこ?」
「スカイプロモーションとか言ってたっけ?」
「そうそう。えっと名刺が……」
結局今日は衣装の最終確認くらいしか、やることがなかったのだろう。俺はただ三人と喋って一日を終えた。
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