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8勝手な期待と独占欲
「……先輩、見て下さいよ。あと十分で授業終わっちゃいます」
後処理が終わった後、明塚は苦笑しながらスマホを見せた。
「本当だな」
と答えると、はーっとため息を吐きながら、ゆるゆると明塚は呟いた。
「こんな堂々と授業サボったの、高校だと初めてです」
少し驚いて明塚を見ると、明塚は冗談めかして言った。
「真面目くんやるのも、割と大変なんですよ?」
「そうだろうな。……お前、根は全く真面目じゃないしな」
「あ、バレましたか」
楽しそうに笑う明塚に、胸が高鳴る。……駄目だ、かっこよすぎる。
この顔を隠しているのはもったいないとは思うが、俺ぐらいしか知らないだろう、と思うとどこか嬉しくもなる。
同時に、俺以外に素顔を晒して欲しくないし、ドSな面を見せないで欲しい、とも思う。
ーー独占欲だろうか。
俺と明塚は、体の関係しかないというのに。変なことは考えるな、俺。
自嘲気味にそう自分を戒める。
「先輩、俺は保健室って建前でここ来たんですけど、先輩は?」
「……俺もだ」
思わず、顔を見合わせて苦笑した。
「そうですよね、やっぱり真っ先に思いつくのって保健室ですし。
……俺はここから直で教室戻るつもりなんですけど、先輩はどうします?」
明塚の問いに、少しだけ黙考する。
多分、伊織が心配して、授業が終わるや否や、保健室に駆けつけるだろう。
その時に俺がいなかったら、色々と面倒なことになりそうだ。
そう考え、こう答えた。
「一回保健室に行く。授業が終わった後、保健室に来そうな奴がいるから」
「……へぇ」
明塚が、低い声で呟く。
いきなり声色が変わり、驚いて明塚を見ると、明塚は心なしか、不機嫌そうな色を浮かべていた。
しかし俺が見ているのに気付くと、さっきとはまったく変わらない顔で首を傾げて俺を見返した。
ーー気のせいか。
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