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3ノンケも目覚めるド天然
弁当箱を取ろうと教室に入ると、隣の教室から声が漏れ聞こえてきた。
「永島くっ……無理、だからぁっ! やめっ……」
間違いなくヤッてるな、これ。
教室でなんて、随分とお盛んなことだ、とは思ったがーー屋上も割と人のことは言えないだろうと思い直す。
とにかく、関わってもいいことなんかありゃしない。
聞かなかったふりをしてさっさと帰ろう。
そう思い、音を立てないように扉を開け、そそくさと弁当箱を取った。
「やだっ、永島君っ、離れっ……ああぅっ!」
されている方の声に聞き覚えがあると思い、少しの間考え、不意に朝礼などでよく聞く声だと思い至る。
ああ、生徒会長の館野和泉の声か。
しかし、合意の上にしては、声が切羽詰まってはいないだろうか。
「うるせぇっ……お前は黙って、俺に犯されてろよッ……」
一方のーー永島くん? はやけにドスの効いた声だった。
しかも、言っていることが乱暴だ。
これはそういうプレイだろうか、それとも……
ああ駄目だ、どちらにしろ詮索しないに越したことはない。
俺は静かに教室を出て扉を閉め、足音を立てないように廊下へ踏み出した。
――ところまではよかった。
不意に手から弁当箱が滑り、床に落下するまでは。
手から滑り落ちるその瞬間が、やけにスローモーションで見える。しまった、と思った時にはもう遅かった。
がしゃああん、と致命的な音を立てて弁当箱が床に落ちた。
少しの間呆気にとられたが、次の瞬間我に帰る。
とにかく何もなかったことにしようと、急いで弁当箱を拾い上げ、さっさと戻ろうとしたが、
「……見たな、てめぇ」
そうは問屋がおろさなかった。
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