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10こんな服装なんて聞いてない

「似合います? これ」  約束した通り、風呂に入ってから文化祭で使った執事服を着て真空さんに問うと、真空さんは顔を赤くして頷いた。真空さんは俺の前に風呂に入っていて、髪が濡れたままバスローブを羽織っていた。 「ご主人様」と真空さんを呼ぶと、真空さんは少し微妙な顔をした。 「前も思ったがやっぱり……そう呼ばれると変な感じがする」 「たまには逆もいいじゃないですか」  すり、と真空さんの頰に手を這わすと、真空さんの瞳が熱を持ち始めた。 「本来自分の言う事を聞くはずの相手に弄ばれて、服従させられて、調教されるシチュエーション、真空さんは興奮しません?」  真空さんは熱っぽい瞳で俺を見つめてきた。俺は笑って、真空さんの手の甲にキスを落とした。 「――ご主人様」  真空さんの目はもう俺に釘付けだった。  真空さんの顎を持ち上げて口づけをする。すると「んぅ……」と真空さんは声を上げた。キスをしながら押し倒すと、真空さんは俺の下で、うっとりとした顔をしていた。 「ご主人様は本当にいやらしいお方でございますね。こんなに誘うような顔をなさって」  執事服を着て押し倒していると、背徳感がある。いけないことをしているような気持ちになる。それが一層俺の興奮を駆り立てた。 「ご主人様、ご命令を。何も仰っていただかなければ、私は何もして差し上げられません」  ご命令を、なんて白々しいことを、と言いながら思った。そんなの形だけで、実際はただの、いやらしいことを言わせるための言葉責めだ。  だけどそれが、興奮する。本当に、従うふりをして相手を服従させている執事のような気持ちになる。  真空さんは最初、少し戸惑っていた。しかし意図を悟ると、顔を赤く染めた。 「う……えっと……平太の、おちんぽを……俺の、いやらしい穴に、挿れてぇ……奥までいっぱい、ずぼずぼしてほしいです……」  言いながら感じてしまったのか、真空さんは真っ赤な顔で太ももを擦り合わせていた。  知らず知らずのうちに口元が上がってしまう。ゾク、と背筋を走るものを感じる。たまらなく愛おしい。とことん追い詰めていじめてしまいたくなる。 「いやらしい穴とは、どこでございますか? きちんと場所を示していただかないと分かりません」  真空さんは驚いたように俺を見上げたのち、耳まで赤くした。それから少し躊躇うように視線を彷徨わせていたが、「ご主人様?」と俺が急かすと、真空さんはおずおずとバスローブを脱ぎ出した。それから俺に見えるように穴を広げてみせた。 「ここに……はーっ……挿れてください……」 「ここ、でございますか?」  浅く指を挿れると、それだけで真空さんは体をビクつかせた。中が柔らかく絡みついてくる。  俺はそれに少し違和感を覚えた。開発しているとはいえ、俺はまだ何もしていないのに、解れすぎている。  そう思いながら真空さんを見ると、真空さんは顔を背けた。ぐっと指を押し込むと、あ、と嬌声を上げて真空さんは体を震わせた。やっぱり、根元まですんなり入った。  俺が内心首を捻っていると、真空さんは恥じるように「すみません……」と囁いた。 「早く挿れてほしくて、その……風呂で、自分で慣らしました……」  真空さんは顔を背けたまま、ちらりと官能に濡れた瞳を向けてきた。――そんなエロい顔で誘われたら、もたないに決まってる。 「……どうしようもなく、淫らなお方ですね」  本当は余裕なんてないのに、そう笑ってみせる。すると真空さんの下の口が、物欲しげに俺の指を咥えた。 「……すき」  隣に寝る真空さんはそう呟いた。行為を終えた後特有の、気だるげな甘い声だった。 「俺の服装がですか? イメージプレイがですか?」 「どっちも……だけど、ちがう……」真空さんは俺に手を伸ばした。察して抱きしめると、真空さんはふにゃりと笑った。「平太が、すき」  たまらない気持ちになる。どうして真空さんはここまで可愛いんだろう。真空さんほど可愛い人は、この世に一人もいないと思う。少なくとも、俺の主観では間違いない。  こんな姿を見せるのは俺だけ、というその事実がどうしようもなく嬉しい。誰にも渡さない。こんなに愛しい人、他人に渡せるはずがない。  真空さんは抱きしめられて幸せそうだったが、不意に呟いた。 「でも、ちょっとさびしい」 「何がですか?」 「これから平太は、俳優として人気になるのかと思うと」  俺は苦笑してしまった。まだ何も進んでいないし、オーディションもまだだというのに。そんなトントン拍子に進むはずがない。 「気が早いですよ。人気が出るまで、何年もかかると思いますけどね」 「いや、平太は天才だから、すぐだ」  そんなにまっすぐ褒められると、くすぐったい。 「そしたら、俺だけのものじゃなくなっちゃうから……さびしい」  真空さんは少し悲しそうに呟いた。――愛しい。誰よりも愛しい。これ以上好きにさせるつもりなのかと言いたくなる。 「真空さんだけのものですよ、俺は。誰が俺のことを好きになってくれようと、ずっと前から真空さん一筋です」  そう囁くと、うれしい、と真空さんは笑った。そのまま髪を撫で続けると、やがて真空さんは静かに寝息を立て始めた。  俺は真空さんを離して、その髪に軽くキスをした。それから俺も、目を閉じた。

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