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二人の関係★
聡の部屋に入ってドアを閉めると、聡はようやくかついでいたオレを下ろしてくれた。
「んっ!」
床に足がついたのとほとんど同時に、聡にきつく抱きしめられ、唇を奪われる。
聡との初めてのキスは、佳暁様との互いに高め合うようなキスとは違い、一方的に奪われ翻弄されるキスだった。
その必死さからは聡の喜びが伝わってくるようで、オレの方まで嬉しくなってくる。
散々むさぼられた後に、ようやく満足したらしい聡がやっとオレの唇を解放してくれた。
快感のあまり視界が少しぼやけた瞳に、聡の真剣な顔が映る。
「さっきの、もう一度言ってくれないか」
さっきの、と言われただけで、聡が何を求めているかはすぐにわかった。
照れくささに顔が赤くなるのを感じながら、それでもオレは聡と目を合わせてはっきりと言った。
「オレ、聡のことが好きだ。
ちゃんと、恋愛の意味で」
オレがそういうと、聡はすごく幸せそうに微笑んだ。
「ありがとう。
嬉しい、すごく嬉しい」
「……ごめんね、いっぱい待たせちゃって」
「気にするな。
確かに待ったことは待ったが、お前も俺のことを好きになってくれているのは何となく感じてたから、そんなに辛くはなかった」
聡の言葉にオレは驚く。
「えっ……聡から見てもそうだったの?
佳暁様と護にもそう言われたんだけど、オレ、本当にさっきまで全然自覚無かったんだけど……」
「ああ。
俺が告白して以降のお前は、抱いている時もそれ以外の時も俺を憎からず思っているように見えたよ。
まあ、俺がそう思ったのは自分の願望も入っていたのかもしれないがな」
「そっか……」
聡の言葉に、オレはちょっとうつむく。
「……やっぱり、ごめん。
オレがもっと早くに自覚できていれば、わざわざ護に抱かれてみる必要もなかったのに……」
「もう気にするな。
正直、俺の方ももっと口説きまくって押しまくったらお前を落とせるとわかってはいたんだ。
けれど、出来ればそんなふうに流されるみたいにして恋愛関係になるんじゃなくて、お前自身にちゃんと自覚して欲しかったんだ。
そういう意味では、お前はちゃんと俺の期待に応えてくれたんだから、その手段は問題じゃない。
それに……」
そこまで言うと、聡は俺の耳元に口を近づけた。
「護に抱かれかけたことなんか、すぐに忘れさせてやる」
男の色気を感じさせる甘い声で囁かれながら、オレはベッドに押し倒された。
そのまま耳を甘噛みされ、弱い乳首をいじられ、結局今夜はまだ一度もイッっていない体はあっという間に火がついた。
それは聡の方も同じようで、さっきからずっとオレの足に固いものが当たっている。
「聡……来て」
もう耐えきれなくなってそう求めると、聡はごくりと喉を鳴らして体を起こしたが、なぜかそこで動きを止めた。
「しまった……ゴムとローションがない……」
「あっ……」
確かにいつも佳暁様の寝室でしか使わないので、ゴムもローションもストックも含めて全部あの部屋にしかない。
いくら佳暁様と護には何をしているかばれているとはいえ、さすがに今から二人がいる部屋にそれを取りに行くわけにもいかない。
「……聡が嫌じゃなかったら、このままでいいよ。
さっき途中だったから、まだ濡れてるし。
……って、そっか、それ以前にオレ一回中洗ってきた方がいいよね?」
今まで佳暁様の後に続けて聡に抱かれる時はいつもそのままだったが、さすがに相手が護では聡も微妙な気分かもしれないと思ってそう言うと、聡は首を横に振った。
「いや、いい。
そんな余裕ない」
そう言うと聡は本当に余裕がない様子で性急に挿入してきた。
「んっ……」
「ちょっとキツいな」
聡の言う通り、少し時間を置いたのと移動したせいで中のローションが流れ出してしまったのか、このまま聡に奥まで入れられるのはちょっとつらそうだ。
「一回中で出すぞ」
そう言うと聡は、浅いところで小刻みに動き出した。
自分がイクためにそうしているはずなのに、聡はちゃんと浅いところにあるオレのいいところを擦ってきて、オレは聡にしがみついて喘ぎ声を上げるしかない。
「……っ…」
聡が息を詰まらせて動きを止めると同時に、オレの中に熱いものがぶちまけられたのがわかった。
初めて感じるその感触の余韻にひたる暇もなく、聡は一回出してもまだ固さを失っていないモノを一気に奥まで突き入れてくる。
「あぁっ…っ……んっ……」
聡が出したもののおかげでなめらかに動かせるようになったこともあって、聡のモノはオレの中ですぐに元の固さを取り戻した。
その固いモノで一番感じる奥のところを何度も突かれ、自分のモノも聡の腹で擦られて、オレはあっという間にのぼりつめそうになる。
「健太……好きだ。……愛してる」
「あ、ああぁっ……」
感極まったような聡の声で、オレはついにイッてしまった。
びくびくと震えるオレの中で、聡も再び熱いものを吐き出した。
「……オレも。……愛してる」
聡がさっきよりも長い放埒を終えるのを待ってから、小さい声でどうにかそう言うと、聡は「うん」と答えてオレをぎゅっと抱きしめてくれた。
「シャワー行けそうか?」
「うー……もうちょっと後にする」
いつも四人でする時はもっと過激なこともしているのに、今日は色々あったせいか、何だかいつも以上に疲れて動くのがおっくうだ。
「分かった、ちょっと待ってろ」
そう言って部屋を出た聡は、すぐにお湯の入った洗面器とタオルを持ってきてくれた。
「中のもの、出してやるからじっとしてろ」
「えっ、いいよ、自分でやるから」
「やらせろよ。
楽しいんだよ、こういうふうに恋人の世話するのが」
「……う、うん……」
そう言われると拒むことも出来なくて、オレはおとなしく聡に後始末をしてもらった。
中を綺麗にしてもらう途中でちょっと気持ちよくなって反応しかけてしまったけれど、幸い聡が手早く処理をしてくれたおかげで、本格的にやばくなる前に後始末は終わった。
さっぱりした体になって、再びベッドに入ってきた聡に腕枕をしてもらう。
いつもとは違う、向かい合わせでの腕枕は、今日は二人きりなのだということをオレに強く意識させた。
「そっか……恋人同士、なんだよね……」
さっき聡がさらりと言った言葉を、改めてゆっくり噛みしめてみる。
それは照れくさいようなうれしいような甘酸っぱい気持ちをもたらしてくれたけれども、同時に少しの不安ももたらす。
「これからどうしたらいいんだろう……。
佳暁様と護との、四人でのこと……」
聡のことを好きだと自覚して、こうして聡の部屋に連れて来られた時は、ただただ目の前の聡のことが欲しいということしか考えられなかった。
けれどもこうして落ち着いてみると、そのことが不安になってしまう。
「今までと同じでいいんじゃないか」
「……えっ?」
あまりにもあっさりとそう答えられ、驚いて思わず声を上げると、聡は静かな口調で続けた。
「少なくとも、俺は今までと同じがいい。
お前のことは愛しているが、佳暁様のこともやはり愛していることに変わりはない。
だからお前も抱きたいし、佳暁様も抱きたいし、お前を抱いて感じさせているところを佳暁様に見ていただいて喜んでもらいたいとも思う。
確かに普通じゃないかもしれないが、それでもそれが、俺なりにお前と佳暁様を愛するために一番いい形なんだ」
そう説明する聡の言葉はよどみない。
それは聡がオレたち四人がこういう関係に変わってから、ずっとそういうふうに思ってきたからなのかもしれない。
「……そうだね。
確かに、オレも今まで通りが一番いい気がする……」
改めて考えてみると、結局はオレも聡と同じ気持ちだった。
聡を好きだと自覚しても、佳暁様を好きな気持ちに変わりはない。
そうすると確かに、今までと同じようにして四人で夜を過ごすのが、佳暁様と聡の両方を愛するためにふさわしい形のような気がした。
「けど、たまにはお前のことを独り占めしたいかな。
だから、佳暁様が出張の時は、こんなふうにして俺一人だけを見てくれないか?」
「あ……うん」
オレがうなずくと、聡は嬉しそうに微笑んでオレの頭を撫でてくれた。
「とりあえず、ちょっと寝ようか。
どうせ明日の朝、二人が起きるまではゴム取りに行けないしな」
「っ……!」
翌朝の行為を匂わせる聡の言葉に、オレが何も言い返せなくなってポカポカと聡の胸を叩くと、聡はちょっと笑った。
そのままなだめるように背中を撫でられて、聡を叩くオレの手の動きは鈍くなる。
それぐらいでうやむやにされるのは我ながら簡単すぎると思いながらも、それでもやっぱりそうして聡に優しくされるのは嬉しくて、気持ちよくて、オレは結局手を止めて、おとなしく聡の胸に顔をすりよせたのだった。
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