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エピローグ 1 ~聡の場合~★

「…さとし……キス、して……」 つらぬかれたままでねだる健太の声は、切羽詰まっているくせに甘える色を帯びている。 「ああ」と答えて顔を近づけると、健太は嬉しそうに微笑んでうっとりと目を閉じた。 「……んっ……は、ぁ…」 中を穿たれる快感に息も絶え絶えになっているくせに、それでも健太は懸命に舌を絡めてくる。 その舌を吸い、舌先を軽く噛んでやれば、それに応えるように健太の中がうごめいて俺のモノをきつく締め付ける。 健太はキスが好きだ。 もしかしたら想いが通じ合う前からキスをしていたなら、健太はもっと早くに自分自身の気持ちに気付いてくれたかもしれない、と考えてしまうほどに。 けれどもそれは、意味のない仮定の話だ。 過程はどうあれ、今こうして健太と二人きりの時にも抱き合うような仲になれたのだから、それだけでもう十分だ。 俺の部屋で二人きりの夜を過ごす時、健太は四人の時とは全く違う媚態を見せる。 佳暁様に喜んでいただくために、いかに自分を魅力的で扇情的に見せるかを意識した感じ方とは違う、見られることを全く意識せずに自らの快感だけを追うその感じ方は、健太のありのままの姿ゆえにひどく魅力的だ。 健太は四人の時に佳暁様を喜ばせるために俺のことを利用していることを気に病んでいるのか、二人きりの時には最初のうちは俺のことを喜ばせようと精一杯努力してくれるのだが、そのうちにぐずぐずになって自分自身の快感だけでいっぱいいっぱいになってしまう。 その姿を見ていると、佳暁様がいる時とは違い、俺一人を相手にする時の健太は俺に気を使わずに甘えてくれているのだと感じられる。 それがまたかわいくて、二人きりの時はつい、健太を濃厚に責め立て、かまい倒してしまい、翌朝目を覚ました健太にいつも文句を言われてしまう。 けれどもそうやって文句を言われることすらも健太が俺には甘えてくれている証拠のようで嬉しいと思ってしまう俺は、そうとうに健太にのめり込んでいると言えるだろう。 「さとし……も、だめ……イキたい……」 涙目でそう請われれば、健太に甘い俺が拒めるはずもない。 「ああ……一緒にイこう」 そう囁いてやると、健太はこくこくとうなずいた。 動きやすいように健太の足を抱え直し、自らの快感を追いつつも、奥の方にある健太が一番感じるところを激しく責め立てると、健太の唇から喘ぎ声がもれる。 雫をこぼす健太のモノを一気にこすりあげると、健太は甲高い声を上げて達した。 その途端に健太の中が俺のモノをきゅっと締め付け、俺も健太から一瞬遅れて達する。 ぼんやりとしている健太に軽く口づけてやるが、今夜も少しばかりやりすぎてしまったらしく、健太はもう大好きなキスを味わう余裕もないようだ。 今にも寝てしまいそうな健太の後始末をしてやり、自分の方の始末も済ませてベッドの健太の横に潜り込むと、すでに意識がもうろうとしているはずの健太が甘えるように俺の胸に頬をすり寄せてくる。 それを優しく抱き寄せてやると、健太は安心したようにふにゃりと微笑んで、そのまますぐに寝息を立て始めた。 こんなふうに健太が甘えてくるのはおそらく、健太に親がおらず、そのために愛情というものにひどく飢えているせいなのだろう。 そしてだからこそ、俺は健太のことを愛する。 佳暁様の側にいることが辛くて、佳暁様から逃げ出した学生時代、何人かの男と付き合った。 その間も頭の片隅にはいつも佳暁様の存在があったことは確かだが、それでも俺は彼らのことを誠実に愛してつくしていたつもりだったのだが、その結果、俺は毎回相手に「愛が重い」と言われて振られてしまっていた。 そんなことを何度か繰り返した後、護に「恋人は主人じゃないぞ」と言われ、俺は妙に納得してしまった。 俺の愛し方は、まるで主人に仕える使用人のように、恋人に対して一方的に愛しつくすものだ。 相手に対しては俺が捧げる愛を受け取って喜んで欲しいとは思うものの、俺と同じようにつくして欲しいとは思わないし、もっと言ってしまえば俺と同じだけの量の愛を返して欲しいとも思わないのだ。 一方的に注ぐだけの愛は、歪な愛だ。 しかも俺は一人に愛を注ぐだけでは満たされることができない。 佳暁様と健太、二人に愛を注いで、二人に愛を受け取ってもらえて、それでようやく満たされるのだ。 本当ならば健太の相手には、こんなふうに二人の相手に愛情を二分しているような男ではなく、健太一人だけに惜しみなく愛情を注ぐことが出来る人間の方がふさわしいのだろう。 だからといって、もし仮にそういうふうに健太を愛する人間が現れたとしても、健太のことを譲る気は毛頭無い。 俺が健太一人だけを愛せないこと、そして佳暁様を中心とする四人でのいびつな関係に健太のことを引きずり込んでしまったことを申し訳なく思っていることは確かだ。 それでも他ならぬ健太自身が今のオレたちの関係に満足してくれている以上、俺は健太と佳暁様、二人のことを全力で愛し続けるし、また二人が今の関係に満足し続けてくれるように努力していきたいと思う。 腕の中で眠る健太は、無防備であどけない寝顔を見せている。 その姿を見ていると、また胸の中に愛しいという感情が広がっていくのを感じる。 けれどもこうして今日、俺の腕の中で甘えた健太は、明日はまた違う姿を見せるのだ。 四人が揃ったベッドの上で、健太は佳暁様に喜んでもらい、欲情してもらうために、またあの艶やかな媚態を見せる。 そしてそのために健太は、自分が愛し信頼する俺に身をゆだねる。 そうして俺はその健太を愛し、そしてまた、そういう俺たちの姿を愛でる佳暁様のことをも愛するのだ。 健太が抱かれる喜びを知った時から俺たち四人の関係が少しずつ変わっていったように、いつの日か、今はこういう形で安定している四人の関係がまた形を変えることがあるかもしれない。 それでも、たとえ形を変えることはあっても、きっとこの四人の関係は誰かが欠けるその日までーーあるいは誰かが欠けたとしても、そのまま続いていくのだと信じている。 「佳暁様……」 ふいに聞こえた健太のつぶやきに驚かされたが、どうやら寝言だったらしい。 いったいどんな夢を見ているのか、むにゃむにゃ言っている健太の寝顔はやけに幸せそうだ。 「俺のことは呼んでくれないのか?」 眠る健太の耳元でそう囁いてやると、健太はにこっと微笑んで「聡……」とつぶやいた。 きっと健太の夢の中には護も出ているのだろうな、などと想像すると、なんだか無性に健太のことがうらやましく思えてきた。 「俺にもお前が見ている夢を見せてくれよ」 思わずそうつぶやいて目を閉じると、俺は健太の後を追うように夢の世界へと旅立った。

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