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1. Rimless Free 7
「身体、つらいんだけど」
素肌に触れるのは、柔らかなシーツと人肌の温もり。どっちも気持ちよくて嫌いじゃないけど、時々すごく不安になる。
本当にこれでいいのかな。そういう答えのない疑問を、俺はいつも心のどこかに抱いてる。
全身が気怠くてたまらない。もともと身体に負担が掛かることをしてるのは俺自身の意志で、誰のせいにもできない。だったらやめればいいのにって思うけど、簡単にやめられるなら、もうとっくの昔にこの関係は終わってる。
窓の外には夕闇が広がってる。ああ、あの時もこんな感じの空だったな。母さんを亡くしたときのことをふと思い出して、無性に懐かしさが込み上げてきた。
「俺のせいにするな。お前ががっつくからだろうが」
「手加減しろ、バカ海里。バカイリ」
ぽすん、と腹立ち紛れに布団越しに脇腹の辺りを叩いてみるけど、うまく力が入らない。何となく負けた気分になって、悔しくて顔を睨みつけたのはいいけれど、眼鏡を外したその顔が万里と同じだからつい見惚れてしまう。
ああ、余計に腹が立つ。
「今日、泊まっていい? 疲れたし動くの無理」
「受験生だろ。帰って勉強しろよ」
「明日の朝ちゃんと帰るって」
わざとらしい小さな溜息は肯定の証。ああでもどうせ帰るまでにまたするんだろうなーとか思うと何だか墓穴を掘ってる気がする。
この手に触れるのは、居心地はいいけど名前のない、生ぬるい関係。
「シャワー浴びたい」
「どうぞご自由に」
「連れてけ」
「……お前、どこまで我儘なの?」
呆れてるけど笑ってる。うん、そういう顔もいい。
このままずっとぬるま湯に浸かっていたいだなんて、思ってしまうことが間違ってるんだけど。
この関係を手離したら、俺はどうやって毎日を過ごせばいいのかもうわからなくなってる。
「伊吹、大学生になったらさ」
「うん」
伸びてきた手が髪に触れる。さらさらと優しく梳かれるのがくすぐったい。少し細めた目が、俺を真っ直ぐに見つめてる。
いつもと違う眼差し。不思議に思うよりも先に心臓が高鳴った。
「ここに住めば」
「……は?」
思いがけない提案に十秒ぐらいフリーズして、やっと出た言葉がそれだった。いや、なんで俺がここに住むことになるんだ。
「海里、どっかに引っ越すの?」
「なんでそうなるんだよ。ここ、俺の家だぞ」
「一緒に住めってこと?」
当たり前だという顔で頷かれて俺は唖然としてしまう。いやいや、だからなんで俺が海里と住むことになるわけ?
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