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2. Voiceless Wish 3

生を受けたばかりの甥っ子に注ぎこむ眼差しの優しさに、ああ海里は子どもが好きなんだなって改めて気づく。 少し意外な気もするけど、考えてみれば俺が小さかった頃、海里は何かとからかってきたけどそれでも優しかった。児童相談所に勤めてる今の環境も、子どもに対する見方に影響しているのかもしれない。 万里の家にいる間、赤ちゃんはずっと寝たままで起きることがなかった。よく寝るいい子なのよと微笑みながら、朱美さんは手を伸ばして柔らかそうなふわふわの髪を優しく撫でていた。 ただ寝ているだけの姿がすごくかわいくて、目が開いてるところも見たかったなとちょっと残念だった。もし自分が産まれたばかりの子を育てることになったらオロオロしてしまうんだろうなとか、そういうつまんない想像もした。 出産祝いを渡して、のんびりと他愛もない話を連ねてからようやく万里の家を出た頃には夕方になっていた。 帰り道、海里と並んで歩きながら何を話していいかわからなくて、とりあえず当たり障りのない感想を告げてみた。 「すごくかわいかったな」 「そうだな」 素っ気ない返事だった。もう少し突っ込んで聞きたくて、俺は言葉を重ねる。 「海里、子ども好きそうだったじゃん。なんかちょっと意外」 駅までの道のりを、茜色をした強い陽射しが照らし出す。射し込んでくる鮮やかな西陽が眩しい。街に魔法を掛けてるみたいだ。こんな時間帯に海里と一緒に過ごすのも随分久しぶりだと気づいた。 「最近不幸な子どもばかり見てるからな。幸せになってほしいと思った」 いつになく真面目な答えだった。俺は海里が仕事でどんなことを扱ってるかなんていちいち訊かないけど、児童相談所が基本的にハッピーな子どもたちと関わるところじゃないことぐらいは知ってる。 コームインには守秘義務がある。だから、海里が自分の取り扱っている案件を俺に話さないのは当たり前だ。それでも少し淋しいなという気持ちはある。海里がどれだけ忙しそうにしてても俺は蚊帳の外で、手を貸すこともできない。 「ニュースで時々やってるけど、あんな小さな赤ちゃんでも虐待されたりするもんな。赤ちゃんの虐待って、どうやってわかるんだろう。自分の身に起こったことを自分で話すことができたらいいけど、赤ちゃんにはできないから、親が否認したら本当のことはわからないんじゃないかって気がする」 頭に浮かんだ素朴な疑問をそのままこぼすと、海里は俺の顔をちらりと見て口を噤んだ。見たことのないような真剣な目に思わずどきりとしてしまう。

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