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2. Voiceless Wish 4

きれいな夕陽を浴びながら、海里はやがて静かに話し始める。 「確かに、乳児は言葉を発することができない。ある程度の年齢になった子どもも、喋れるからと言って本当のことを言うとは限らない。子どもは本能で親に愛されたいと願うから、親を守るために嘘をつく」 自分が逮捕されるようなことをしてしまったら、嘘をつく親だっているだろう。そうなれば、真実を話す人は誰もいなくなる。 海里の仕事は忙しい。それは、俺がニュースでしか知らない悲惨な世界が日常に転がってることを意味してる。 「でも、子どもの身体は嘘をつかないんだ。例えば、乳児が突然亡くなったときに頭部CTを撮ると、硬膜下出血が認められることがある」 「脳に出血があるってこと?」 「そう。それだけじゃなくて網膜が出血してる場合もある。乳幼児揺さぶられ症候群とか言われてるけど、ちょっとやそっと揺さぶったぐらいでそんなことにはならない」 さっき万里の家で見た赤ちゃんを思い出す。 抵抗する術を持たない小さな命。あんな子にそんなひどいことができる大人がいることが信じられない。そこにどんな理由があったとしてもだ。 「それは最悪のパターンで、そうならないために動くのが、俺が今いるところの役目。忙しいのは受け入れてるんだ」 命を守るための仕事だから。 そう言い切って海里は真っ直ぐに前を向いた。 建物の向こう側まで縁のない空が広がってる。夕闇に包まれながら、俺は海里の横顔をそっと盗み見た。 凛とした眼差しが急に知らない人みたいに思えて、思わず手を伸ばしてみた。手と手が触れ合う感覚に安堵する。ぬるい体温が恋しい。 「なんだよ」 顔を顰めて見下ろすその眼差しに不覚にも鼓動が大きく鳴った。性格はともかく顔だけは抜群にいいのは反則だ。 「いや、労ってやろうと思って」 人前で手を繋いで仲睦まじく歩くなんて、大それたことはできない。だから五秒だけ数えて、握りしめた手をそっと離した。 「お前、かわいいとこあるな」 ニヤリと笑うその顔は良からぬことを企んでいるときのものに違いなくて、なんとなく自爆した気がする。 自爆っていうか、誤爆っていうか。 「うるさい」 もっと繋いでいたいと思う気持ちを振り切るように悪態をついて、また遠くの空を眺めた。 もうすぐ夜が訪れる。この空がどこへ続いていたって、俺は海里と一緒に歩けるならそれでいいのかもしれない。

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