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2. Voiceless Wish 7
「海里、イきたい」
いつも俺は自分の欲望ばかりを口にして、海里がどうなのかとか考える余裕がない。海里の言うとおりガキのままなんだろう。
俺はシシュンキから抜け出せないまま、海里と一緒にいられる口実を探してる。
至近距離で視線が交差する。艶やかな眼差しは胸が痛くなるほど甘くて、見つめられるだけで目眩がする。このまま時間が止まっても俺は一ミリだって後悔しないし、むしろ止まってしまえばいいのにとさえ思う。
「……わかった」
形のいい唇の端がきれいに上がった。どん、と突き飛ばされて背中に衝撃が走る。高く掲げられた足に顔が寄ってきてふくらはぎを強く吸われると、そこが心臓になったようにどくりと大きく動いた気がした。熱に上擦った空気が小刻みに揺れるのを感じる。
「ん、あ……アッ、海里……ッ」
ガクガクとゆさぶられてだらしない声がこぼれていく。律動は強く激しくて、腰を打ち付けられる度に頭の中がクラッシュしてしまう。奥まで穿たれることが信じられないぐらい気持ちよくて、与えられる快楽に身を委ねるうちにゾクゾクとしたあの感覚が繋がる部分から湧き起こってくる。
「あ、海里、イきそう……ああぁッ」
ビクビクと中が痙攣して、大きな波が意識を浚っていく。海里の動きも止まって、ああイったんだなとわかった。
苦しい呼吸の中で目を瞑り、壮絶な快感の余韻に浸る。
世界が色を失って、そして色を取り戻していくこの感覚が俺は好きだ。ざらざらと砂嵐のように視界が濁り、やがて淡く輪郭を紡いでいく。
閉じていた目を開ければそこにいるのはいつも傍にいる海里で、満足げに微笑みを浮かべながら整わない呼吸なんてお構いなしに軽いキスをしてくれた。
繋がったまま唇をそっと啄まれて、身体がじわりと疼く。くすぐったさに息をついて、またゆっくりと目を閉じる。
「伊吹、好きだよ」
セックスのときにご褒美みたいにくれる甘い言葉。俺だってお前が相当好きで、できることならずっとこの手で捕まえていたいと心から願う。
だけどそんな言葉は口にしてやらない。だって俺たちはどう考えても不釣り合いだから。
汗ばんだ身体を抱きしめられて、額にそっと唇があたる。普段は意地悪なくせにこうして優しくしてくれるのは卑怯だと思う。
海里に守られた俺の世界はぬるくて居心地がいい。だからつい身を委ねてしまう。
だけど、少なくとも誰にも咎められない限りはこうしていたいんだ。
目を閉じたまま小さくなっていく波に揺られながら、俺は本当はどうしたいんだろうと自問して、だけど気怠さの中で思考を放棄してしまう。
ここは甘くて優しい、閉ざされた世界。
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