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2. Voiceless Wish 8

シャワーを浴びて二人でベッドに潜り込む。汗を流したからベタベタしてた身体がさっぱりとして気持ちいい。このまま眠って朝になれば、もう体力は回復してるだろう。 「久しぶりに万里に会って、どうだった?」 瞼を閉じようとしたら不意にそんなことを訊かれて、思わず隣を見る。仄かな明かりを放つ常夜灯に照らされて、海里の顔は橙色に光ってた。 ああきれいだなと改めて思う。 答えを適当にはぐらかすことはできたはずだけど、海里にごまかしが通用しないのはわかってた。だから俺は正直に答えを口にする。 「なんか、初恋が実らなかった感がすごい」 「なんだそれ」 「振られた気分っていうか」 呆れたような顔をして海里はこっちをじっと見つめる。でもこれは俺の本心だった。 「だって、俺はガキのころ万里が好きだったから」 優しくて賢くて顔もよくて、なんでもできる万里。 憧れの幼馴染みはいつも近くにいるのにどこか遠い存在で、憧れはそれ以上にはならなかったし、なるわけがないと思ってた。 なのに、ある日突然俺に近づいてきたのは万里じゃなくて海里だった。越えるべきじゃなかったラインを越えてしまって、倒錯した想いを抱えたまま海里と一緒にいるうちに、いつのまにか海里のことが好きだと思うようになった。 だからと言って長い間万里に対して抱いていた気持ちが嘘だったというわけじゃない。俺は万里のことが確かに好きだったんだと思う。 万里から交際している彼女を紹介されたとき。その彼女と結婚すると知らされたとき。親族と同じテーブル席で結婚式に参列したとき。 その度に俺は淡い初恋が実らなかったことをまじまじと思い知らされた。海里への気持ちとはまた別の次元で、俺は万里に対して恋に限りなく近い想いを抱いていたんだと思う。 そして、今日は今日で万里が築いた家族の形を目にしたことで改めてそれに似た感情が湧いてきて、そんな自分にちょっとびっくりした。 「思ったことはそれだけか」 そう訊かれて、つい黙り込んでしまう。天井をじっと見つめながら小さく溜息をつくと、鼻を人差し指で軽く弾かれる。 「いたっ」 「なんだよ、言ってみろ」 冗談めかした口振りで促される。ここで黙秘が許されないことはわかってた。思ってることを口にするのは怖かったけど、勇気を振り絞って訊いてみる。 「海里はさ、子どもが欲しいとか思ったりしないか」 一気に気まずい沈黙が降りる。ほら、だから嫌だったんだけど。 俺の言葉に一瞬目を見開いて、それから海里は目を細めて小さく笑う。 「産んでくれるのか」 「はあ? バカ!」 ああ、やっぱり言うんじゃなかった。 心底後悔しながら顔を背ける。頰がみるみる火照っていくのがわかった。薄暗いから顔色なんてわかるわけがないのに、慌てて布団を目元まで被ってごまかした。

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