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2. Voiceless Wish 9

これは一過性の恋で、海里にとっては俺との付き合いなんて通過点に過ぎない。 だから、いつだってその時を迎える覚悟を忘れちゃ駄目だ。 そんな思いをぐるぐると抱えたまま高校生の頃からこの関係を続けて、俺は年齢だけ大人になった。 「結婚して、子どもができて、家族が増えて、休みの日に子どもと遊びに出かけたり、運動会を見に行ったり、そんな毎日を積み重ねて子どもの成長を楽しみにしながら、いろんなことを頑張って過ごしていく。そういう当たり前のことが、海里と俺にはできないっていうのを考えてた」 一息にそう言った途端、大きな溜息をつく気配がした。 「お前、本当にバカだな」 こつんと指の関節で頭を小突かれる感覚に、布団から顔を出す。文句のひとつでも言ってやろうと思ったのに、注がれる真剣な眼差しから目が逸らせなくなった。 怒られてるような気がして思わず黙り込んでしまう。 「結婚して子どもができないと家族になれないのか」 「……わかんないけど」 「わからないことを当たり前だなんて言うな」 もっともらしいことを口にして、海里は手を伸ばしてきた。肩を強く引き寄せられて、どくんと鼓動が高鳴った。 「俺はお前と一緒にいたいからこうしてるんだ。気づけバカ」 唇が近づいてきたから反射的に目を閉じる。触れる温もりが淡く混じり合って、優しさが流れ込んでくる。 宥めるようなキスは嫌いじゃないけど少し物足りない。身体は繋がればはっきりとわかるのに、心が繋がってる証はどうすれば目に見えるんだろう。 いや、見えなくてもいいんだ。せめて、自分自身が納得することができれば。 「家族になろうって、言っただろ」 唇が離れて、吐息が触れる。それは小学生の頃、母親を亡くした俺に海里がくれた言葉だった。そのときに感じたあたたかな気持ちは今も忘れてない。 けれど一緒に暮らすようになって、こうして肌を寄せ合っていても、海里と俺の間に確かなものは何もない。 「海里のことが、好きなんだ」 自分に言い聞かせるようにそう囁いて、おやすみと口にする。頭にふわりと優しい掌の温度を感じた。 どんなもので繋がることができれば、俺は海里とずっと一緒にいられるんだろう。 こんなに近くいるのに、答えはわからないままだ。

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