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第2話

「あれ、兄ちゃんだったか。こりゃ失礼」 無造作に顎髭の散らばった店の店主ががははと笑う。 悪いだなんて少しも思っていない態度だ。 ケントは口をむすっと尖らせるもこの辺りに防具屋はここだけなので、仕方なく店の商品に手を伸ばす。 ショートの真っ黒な髪、白い肌。 目は黒目がちな透き通った焦げ茶色。 卵形の輪郭に、小さな顔。華奢な体つき。 全体的にそれぞれのパーツがMよりのSサイズだ。 お嬢ちゃんと間違えられるのも仕方がないだろうと思う。 ─あっちの世界に似せて作り上げた自分のビジュアルをケントは少し後悔していた。 もう少し逞しい姿で冒険を始めればよかった。 溜め息をつきながら光沢のある白いローブを手にする。するっと滑らかで、肌触りがとても良い。 「お、お目が高いね兄ちゃん。そのローブはシルク製だ。水魔法を練り込んだ繊維で織られた生地だから防火性が高く優れている。通常なら35000ベルの代物だが今なら28000ベルでどうだい?」 どうだい?と言われても。 ケントがそんな大金を持ち合わせている筈がない。 「そんなお金ないよ」 「なんだ、しけてんなぁ」 「わ、悪かったな!」 なんて失礼な店主だ。 ケントはむすっとしながらも、他の商品に目を凝らす。 ともかく何か今よりも機能性が優れたものを身に付けなければ。 たかがネズミ狩りと侮ってはいけない。まだお目にかかったことはないが、きっと獰猛な大ネズミなのだろう。 やり合えば命を落とすことだってある。 「なんだ兄ちゃん、新人の冒険者か?」 「そう。職業はヒーラー。防具にかけられる予算は50ベル。この金額内で買える一番上等な物を売ってくれ」 そういうことなら、と、店主が店の奥から白を基調としたゴシック調の魔導士服を手に戻ってきた。 とても50ベルで買えるものとは思えない。 「カッコいい!でもそれ高いんじゃ?」 「国からの支給品だ。デザイン性は高いが性能は下の下だ。今身に付けているローブよりは幾分ましだろうが戦闘の際は気を付けるんだな。今払えるのは50ベルなんだろ?だったら50ベルでいい」 「わかった、ありがとう」 ケントは笑顔で店主に金を渡すと魔導士の服を受け取った。 早速粗末なローブを脱ぎ捨て魔導士の服を装備する。 「やっぱりカッコいい!あ、そうだ、このローブ買い取りしてくれない?」 「あぁ。これなら1ベルで買い取るがいいかい?」 「い……1ベル」 ケントは落胆した表情で脱いだローブを売り払い、1ベルを受け取った。

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