3 / 138
第3話
ごわごわしたただの布切れのような物を引き取ってくれて、尚且つ1ベルくれるというのだからありがたいと思う他ないだろう。
この時ケントの手元にあった残金は21ベル。
非常に厳しい財政状態だが、駆け出しの冒険者ならば皆同じようなものだと思う。
始めから大金を所持しているチートな新人冒険者などそうそういない。
ともかく手ぶらで外に出るわけにはいかず、次に武器屋へ立ち寄った。
そこで一番安い木の棒という武器なのかそれとも何かの便利グッズなのかよくからないネーミングの長い木切れを購入した。
勢いよくどこかしら叩けばポキッと折れてしまいそうなくらい頼りない木の棒だ。
それでも素手でネズミを殴る気にはなれないのだから、これだってないよりはありがたい。
ケントは酒場を出て、街の外へ出た。
ネズミの出現するイジー草原は街の外に広がっていた。
「んーっ、気持ちいい」
どこまでも続く青々とした緑の絨毯と、清々しく爽やかな自然の香り。
ケントは棒を持ったまま両手を上げて伸びをする。
ただのネズミ退治だし、と、まだ気楽に考えていた。この時は。
草原を歩き回ること30分。
一向にネズミが見付かる気配がない。
足元にはバッタや蝶々などの昆虫ばかり。
「ネズミって沢山いるんじゃないのか!?あの貼り紙は一体何だったんだ?ネズミの毛皮が貴重なものなら報酬だってもっと弾むはずだろ」
愚痴をこぼしつつ棒で足元の草を切るようにして八つ当たりしながら捜索エリアを少しずつ広げていく。
どこまで進んできたのだろう。
次第に辺りはどんよりとした雲に覆われ暗くなり、ゴロゴロと雷のような音も聞こえ始めた。
「遠出し過ぎたかな……」
振り替えると、ケントのいた街の入り口が遥か遠くに見えている。
初心者ながらにも野生の勘というやつで、明らかにケントが独り歩きできる場所ではないとわかる。
「なんか……怖いし、戻ろうかな」
ケントがぴたりと足を止めたその時、どこからか、グルルルルと犬のような唸り声が聞こえ、ケントは咄嗟に木の棒を構えた。
何かいる……!
しかしどこから何に狙われているかもわからないまま、背後から唐突に攻撃を受け前方へと倒れ込んだ。
「うわあぁっ!!……グ、グール!」
青黒い顔、血管の浮き出た腕に引き裂かれたボロボロの衣服。
間違いなく人型のモンスターであるグールだ。
グールは鋭く長い爪でケントの背中を容赦なく切り裂いた。
幸いにもこの世界で痛みを感じることはない。
しかし命は有限だ。
目に見えて自分が死に近付いているのはわかる。
勝てない─!ケントは即座に判断し、自分に今出来ることは街へ逃げ帰ることだけだと、次の攻撃を受ける前に立ち上がった。
ケントは脇目も振らずに走り出す。
必死に逃げるが、後ろから繰り返し攻撃され、じわじわと体力を奪われていく。
「はっ、はぁっ」
ケントは途中で一旦足を止め、自身の得意とする回復呪文を唱えた。
瞬間的に体力は回復するが、再び攻撃され体力を削らる。その繰り返しだ。
「もう……、呪文を唱える力も……」
ケントはふらふらになりながらも走り続けるが、街へはまだ遠い。
「た、助けて……!助けてぇっ!!」
なりふりかまってられなかった。
ケントが助けを求めて叫びながら逃げ惑っていると、直後、ザンッと音がして、後ろでグールがバタリと倒れる気配がした。
ともだちにシェアしよう!