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第9話

階段を上って教室へ入り席に着く。 健人はすぐに、先刻から握り締めていた封筒を一通ずつ開封した。 中身は大方ラブレターと予想できるが、一応目を通しておかないと気持ち悪い。 相手が誰なのか、内容は何なのか。 その手紙で呼び出されればそこまで行って白黒つける。 まるでラブレターという名の果たし状だ。 直接健人が出向いて面と向かって話をすれば、不思議とすんなり諦めてくれることも多い。 下手に避けて告白の返事を引き伸ばすよりも断然こっちの方が気は楽だ。 「和也。なぁ、昼休み中庭付き合って」 「いいけど。また呼び出しか」 「うん」 健人が手紙の誘いに付き添いを頼むのは、中等部から一緒で健人の親友である並木和也だ。 いくら強がっても健人にとって同性からの告白は恐怖でしかない。 和也を同行させるのは諦めの悪い輩への最終手段として、和也と何となく付き合ってますという雰囲気を見せつけるためだった。 当たり前だが、実際に付き合ってなどはいない。 互いに健全な年頃の高校男子。 もちろん恋愛対象は可愛い女の子だ。 昼休み、健人と和也がラブレターで呼び出された中庭へ向かう。 溜息をつく健人とに欠伸をしながら歩く和也。 和也の顔にはどうせ『他人事』だと書いてあるようだった。 因みに和也は、サッカー部に所属する爽やかなスポーツマンで、俗にいうイケメンだ。 いつも姫と呼ばれる健人と一緒にいるので、一部の生徒からはその立場を誤解され、健人のナイトなどと噂されていた。 「呼び出して告白とか、マジで怖いんだけど。こないだなんて相撲部の先輩に告られて押し潰されて死ぬかもって……」 和也は隣で苦笑していた。 いざとなれば和也に出てきてもらい、「こいつと付き合ってます」と、こう言えばいいと思っているので和也の存在は健人に欠かせない。 実際は付き合うどころか和也には他校に彼女がいて、いつもノロケ話を聞かされている。 ノロケを聞いてやってるんだから、これくらいいいだろと健人は思っている。 健人にとって和也はかなり貴重な友人の一人だった。 歩いていると和也が何かを思い出したように「あ」と声を発した。 「ん?」 「そういや健人ゲーム始めたんだろ。面白い?」 「あぁ、lostworldな。うん、あれは別人になれて別世界で遊んでる感覚が格別に面白い。そうだ、和也もやれば?」 「やりたいけど部活終わって家帰るともうクタクタでさ」 「そりゃそうだろうな。……リアルが充実してる奴はいーなー」 部活プラス彼女で忙しいんだろ。 含みを持たせた横目で和也を見ると、和也が顔をしかめ突然足を止めた。 「どうした」 「……いや、悪い。さっきから腹が痛くて。ちょっと限界。先行ってて」 「え、腹痛?」 「慣れてんだから一人でも大丈夫だろ。いざとなったら相手の急所を狙え!」

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