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Lv.5ケント
ケントはイジー草原の真ん中で再び目覚めた。
そして辺りをきょろきょろと見回した。
「ハランはいないんだ……」
一緒にネズミの皮を集める仕事に挑み、この世界のこと、あっちの世界のことも色々と話した。
ハランと共に過ごした時間はとても楽しくて、あっという間に過ぎていき、今この広い草原にたった一人で立っていることに寂しささえ覚える。
「また会いたいな。そのうちいつか会えるよね」
ケントは集めたネズミの皮を腰に下げた麻の袋へ詰め込んで、イジー草原を後にした。
初めてできた友達に会えなかったからといって、落ち込んでいる暇はない。
ケントは次の仕事を探しにアンナの酒場へと向かう。
酒場は相変わらずがやがやと賑わっていた。
ケントは冒険者達の隙間を縫うようにして歩き、やっとのことで求人の貼られた壁の最前列まで移動した。
ネズミ退治の仕事で少しは戦闘の腕が上がっただろうか。
次の仕事はもう少し報酬のよいものに挑戦できないだろうかと、壁の求人に目を凝らす。
「何々……草原の谷に咲くガラスの花を根っこから採集した冒険者に5000ベル?」
5000ベルとは随分と気前のよい金額だ。
しかし草原の谷には行ったことがないし、谷という言葉の響きだけで、危険な場所なのではないかと想像する。
しかし5000ベルあれば、見せかけだけの装備品ともおさらばできるだろう。
─どこでこの仕事は受けられるんだろう?
「えーっと……アンダーグラウンドの黒魔法屋?……アンダーグラウンドってどこだろ」
ケントは壁をじっと見詰めながら首を傾げた。
冒険を始めたばかりのケントにはわからないことだらけだ。
「うーん?でもこの草原は多分イジー草原のことだと思うんだよなぁ」
恐らく自分ではまだ力の及ばない仕事だろうと予測できたが、イジー草原自体は行けない場所ではないため、もしかしたら自分でも挑めるのではないかと淡い期待を抱いてしまう。
ケントがぶつぶつと呟いていると、ケントの真横で仕事仲間を探している冒険者が手当たり次第に女性の冒険者に声を掛けていた。
ケントはちらりと視線を向けた。
その冒険者にはキツネのような獣の耳が生えている。
視線を下へずらすと、暖かそうなふさふさの尻尾も生えている。
「獣族だ。初めて見た……」
人族の住むここウインディア共和国では珍しい種族である。
「あ、ねぇ君、一緒にイジー草原外れの谷まで行かない?綺麗な花が咲いてるんだ」
「ゴメンナサイ、あたし約束あるの」
「わかった、またね」
その獣族の冒険者は声をかけては断られを繰り返している。
ナンパしては断られを繰り返しているみたいだった。
自分だったら断られれば少なからずショックを受けるだろう。
しかしこの冒険者は落ち込む様子が全くない。
自分には真似できないなと感心していると獣族の冒険者と目が合った。
「ねぇ君、ヒーラーだよね。草原の端にある谷まで一緒に来てくれないかな。綺麗な花が咲いてるんだ」
綺麗な花でピンときた。
ケントは無言で求人を指差す。
これのこと?と。
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