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第14話
「そうそう、それ」
「本当に5000ベルもらえる?」
「勿論」
彼はケントに向けて親指を立てて見せる。
屈託のない笑顔がケントの警戒心を解きほぐし、初対面にも拘わらずケントとの距離を一気に詰めてくるが不快な感じは全くない。
むしろベテラン冒険者の風格すら感じられ、彼について行けば間違いなく新しい何かが始まるのではと期待を抱く。
もともと気になっていたガラスの花の採集。
それに加え、新たな仲間との冒険。
何よりも高額の報酬に釣られ、話しはすぐにまとまった。
二人は早速草原へと向かった。
「僕はジン。君は?」
「ケント」
「ケントか。急な誘いに乗ってくれてありがとうね」
「いやこちらこそ助かったというか、一人じゃきっと無理な仕事だろうなって思ってたから」
「そう?ケントなら可愛いし常に不足してるヒーラーだし、引く手あまたなんじゃない?」
「いやいや、まだまだ駆け出しの身で、回復魔法が少し使えるだけで」
謙遜している訳ではない。
本当にそうなのだ。しかも一人じゃ冒険もままならない程ひ弱だ。
魔法を使うことに気力、体力を消耗するためか、腕っぷしに関してはからきし駄目だった。
─しかも可愛くもないし。
ハランが自分を女と勘違いしたようにジンも恐らく勘違いしている。
酒場でジンが声を掛けていたのは100%女性の冒険者だった。
自分が男だと気付いたら、この仕事はなかったことにされてしまうんじゃないか。
それに弁解しなくてもいずれ気付くだろうと、取り敢えずこの仕事が終わるまで黙っていることに決めた。
目的地周辺まで移動したところでケントは目の前に広がる光景、その美しさに目を見張った。
「わぁ……!すごい!こんな所があったなんて。この辺りはしょっちゅう走り回ってるけど、こんな場所があったなんて知らなかった」
そこには小さい湖があり、七色の虹がかかっている。
湖面には淡いブルーのキラキラと輝く光が乱反射し、空から湖にかかる虹は水面にハッキリと写っている。
湖の中に、もう一つ虹があるようだった。これはなかなかの絶景である。
「イジー草原にある虹の湖は有名だよ。デートスポットとしてね」
「デート?へぇ」
言われてみれば、男女のペアが周辺にちらほら確認出来た。
観察するつもりはないが、ケントの目はいちゃいちゃしているカップルに釘付けだ。
「なんか……みんなすごいね」
「何が?」
「何がってその……」
人目も憚らず、抱き合ったり、キスしたり。
恥ずかしくはないのだろうか。
ケントが真っ赤になって俯くと、ジンは大笑いした。
「ふっ、はははっ、ははははっ」
「え、なんだよ。ジン笑いすぎ!」
「ケント可愛い!」
「な、可愛い可愛い言うな!言っとくけど俺男ですから!」
黙っておこうと決めていたが、思わず勢いに任せて男であることを口走る。
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