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第16話
大金を産むガラスの花はすぐそこだ。
「ケント、ストップ!」
突然ジンが声を上げた。
「えっ、何」
その声がただ事ではないことを知らしめる。そこに潜む危機をケントに伝えようとしていた。
「下がって!僕の後ろに!」
「うんっ……」
美しく咲き乱れるガラスの花が突如パチパチと放電を始め、辺り一帯に火花が飛び散る。
「うわっ、熱っ!」
「ケント、炎か雷のダメージを和らげる魔法は覚えてる?」
「ううん、回復魔法しか使えない。大丈夫?いける?」
こんな時に自分の無力さがとても悔しい。
ジンに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「うん大丈夫。一気に片付ける」
足元の火花は次第に大きな渦を巻き、その中からガラスで作られた人型をした何かが顔を出した。
青白くシンプルなドレスを身に付けた女のモンスターだ。
「な、なに、あれ!」
「この花の聖霊だね。守り神みたいなものかなぁ」
いつしか花から少し離れているケントの足元までもがパチパチと火花を散らし始め、パンッと弾けた火花に驚き、ケントは体制を崩し、苔で足を滑らせ尻餅をついた。
「ひゃあっ!いっ─、いてて……も、もしかしてあれを倒さないとこの花は採集できないの!?」
ケントはぶつけた尻をさすりながら顔を上げた。
「そうみたいだね。ケントは防御に徹底して、攻撃が緩んだら回復をお願い。くるよ!」
ジンの声を合図にするように、花の聖霊がバッと両手を広げ鋭く尖ったガラスの花を二人へ向けて打ち放つ。
こんな物をまともに受けていては恐らく即死だろう。
ケントはしゃがんだまま迷わずマントの中に身を隠した。
「どこに向かって打ってんの?お前の相手はこっちだよ!」
ジンが聖霊を挑発している。
挑発しながら自分だけを的にさせようとしているのがわかった。
「ジン、頑張って……」
ケントにはもうジンを見守ることしかできない。
ジンは両の拳を握りしめ下半身をぐっと下げる。力を貯めているようだった。
その間、ケントも回復魔法を詠唱する。
花の刃の第二波が襲いこようとしたその瞬間、ジンは走り出しあっという間に精霊の懐へ潜り込んだ。
***************
「ジン強いなぁ!」
ジンと精霊との一騎討ちは戦闘から間もなくジンが勝利した。
健人はケントに回復魔法を唱えさせながら、足元からガラスの花を採集した。
「よっしゃ。これで5000ベル!って言ってもアンダーグラウンドの魔法屋に持ってくんだよなこれ。ていうかアンダーグラウンドってどこ」
首を傾げる健人の目の前、画面の向こうでケントがジンの傷を癒す。
『街まで送るよ』
『え、いいよ。一人で帰れる』
『そんなこと言わずに送られてよw』
「だーっ、もう!だから女じゃないって言ってんのに」
健人は思わず声に出してジンに抗議する。
こんなやり取りをしていると、湖の方が突然騒がしくなった。
『ん?あぁ、キングか』
『キング?』
『このサーバーじゃ有名なプレイヤーだよ。僕の所属するギルドのリーダーでもある』
『ギルド?』
『希少モンスターを狙って狩るギルドだよ。ヘビーユーザー向きのギルドかな』
『そんなのあるんだ』
健人はケントをざわついている方へと動かした。
キングと呼ばれていたプレイヤーはケントが見たことのない風貌で、身に付けている装備品は恐らく超レアな物ばかり。
光沢のある黒い鎧の肩には小型の竜が浮かびキングにぴったりとついて回る。
「あれ、ハラン……?」
健人は目を凝らして画面を確認した。
間違いない。
竜を動かしているのはハランだ。
こんなところで再び会えるとは思わなかった。
健人は無意識に笑顔でハランを見詰めていた。
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