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第18話
「あれ、もしかして─ケント?」
小柄で若い男の冒険者はウィンディアの新人冒険者の装備を身に着けている。
それにアンバランスな木の棒を腰に差していて、それを見たハランはここでケントと一緒ににネズミ退治したことを一気に思いだした。
ハランの言葉でケントと思しき冒険者が顔をこちらへぱっと向けた。
ケントの大きい黒目がちな瞳がハランを捉える。ハランを認識したケントは顔を綻ばせた。
「あぁ、やっぱりハランだった!すごい鎧着てるし見たことない格好だったから自信なかったんだけど、ハランかなぁって。この子可愛いね」
ケントがハランの肩に乗る小さな竜へと手を伸ばす。
ハランは小声で竜に向かって「噛むなよ」と言い聞かせた。
「こいつ見た目は可愛いけど獰猛だから気をつけろよ」
「そうなんだ。へぇ、こんなに可愛いのに見た目とは違うんだなぁ」
サイズが小型なだけで竜であることには変わりない。
この竜は吹雪や炎を吐くし、するどい牙で噛みつき体を巻き付けて相手を絞め落とすことだってする。
今は双方ともに良好な信頼関係で結ばれているが、ハランといえども、この竜を自在に操れるようになるまで相当の苦労があった。
「ハラン、俺と初めて会った時はナイトだって言ってたけど、今は何やってるの?装備が違うし竜もいるしナイトじゃないよね?」
「今の職業は竜騎士。俺の本職だ。因みにこの世界で取れる職業は全部取得した」
「竜騎士かぁ。響きからしてカッコいいなぁ!俺も違う職に転職しよっかなぁ」
冒険を始めて間もないケントの瞳はキラキラと輝いていた。
***************
ハランに憧れの眼差しを真っ直ぐ向けるケント。
その憧憬を真っ直ぐに向けられるのは、悪い気がしない。
ケントは素直で、見ていると応援してやりたくなる。
『なぁハラン、俺見ててもいい?希少モンスター狩り』
『まぁいいけど。範囲攻撃食らったら一撃で死ぬぞ』
『そっか。残念(´・ω・`)』
画面の向こうでケントがしょんぼりと落ち込むモーションでアピールする。
むずむずと宗太の中でケントを甘やかしたい感情が湧き上がり、気付くとキーボードを叩いていた。
『見るなら俺の後ろにずっといてくれ』
『いいの……?ほんと?』
周りのプレイヤー達が避難しているのを見て不安に思ったのか、ケントは手放しには喜べない様子だ。
『大丈夫だ。騎士系統には仲間を庇うスキルがあるから、俺の後ろについていれば自然とそれが発動する。俺の真後ろに体を固定させとけよ』
『ん??固定???』
『やり方知らねぇの?』
『うん』
「知らない」と言いながらケントはガッツポーズする。
「なんだよ。世話の焼けるやつだな」
宗太はそう言いながらもケントに世話を焼くことが楽しいと思うようになっていた。
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