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Lv.7筑波健人

健人はlostworldにはまり込んでから、充実した日々を送っていた。 そう、これだけを除けば。 「うわ、またかぁ。レスリング部郷田先輩……」 健人が手紙と睨めっこしながら和也に訴えかける。 何度思い出してもぞっとする。あの力強く手首を掴まれた感触。生温かい手。 「ああぁ、有り得ない。無理無理」 健人は両手で自分の肩を抱き、ぶるっと身震いする体を手でさすって慰める。 「それって俺が付き合ってやれなかったやつ?」 健人の席の隣で紙パックの飲むヨーグルトをちゅーちゅー吸いながら和也が健人の手元を覗き込む。 「そうだよ!途中でうんこしに行きやがって」 「健人ぉ、可愛い顔してうんことか言うなよ。あれは悪かったとは思うけど不可抗力だ。便意に勝てる奴がこの世にいると思う?」 「知るか!……俺、ちゃんと断ったのに」 身の毛がよだつほどの嫌悪感。ここまで嫌な気持ちになるのも珍しい。 じわ、じわと目元が熱くなっていく。 気付くと健人が涙目になっていて和也が驚く。 「え、ちょっと、おい泣くなよ。何て書いてあるんだ?」 健人は手紙をずいっと和也の前に突きつける。そこにはこう書いてあった。 【もう一度君に会いたい。これで最後にする。最後に君の思い出がほしい。今日の昼休み屋上で待つ。郷田】 和也は文面を読み眉根を寄せた。 「確かに……最後に最後にって、なんだか執着めいたものを感じるな。何か執着されるような、恨まれるような断り方とかした?」 手首を強く掴まれただけでなく、顔も姿形も郷田の全てに嫌悪を覚えたことしか覚えていない。 自分は何かしたのだろうか? あの日中庭で告白されたことを思いだす。 ──あ。 「俺、確か……女の子の方がいい、俺が本当に好きなんだったら可愛い女の子を紹介してくださいって郷田先輩に」 「それだ!間違い無くこれは根に持ってるだろうな。納得いく振られ方じゃなかったってことだろ。バカだな健人。言い方を間違えなけりゃこんなことにはなってなかったかもしれないぞ」 「えーっ、でも、ハッキリキッパリ断らないと付け込まれるぞって前に助言したの和也だろ!」 恋愛経験ゼロの健人に吹き込まれた和也のアドバイスは、健人の恋愛マニュアルとして頭の中に刷り込んである。しかしこれが良くないほうに傾いた時の対策法は載っていない。 「……俺が悪いの?」 「和也ぁ……」 潤んだ目で見上げられると健人が男だということはわかっていても放っておくことは出来ず、仕方なく和也は頷いた。 本当に気が重い。 何故、貴重な昼休みの時間を郷田なんかに裂かなくてはいけないのか。 しかしこれを片付けて学校が終われば、またlostworldの世界で冒険できる。 健人の今の癒やしはlostworldだけ。 パンッと両手で頬を打ち健人は自分に気合いを入れる。隣を歩いていた和也がそれを見て体をびくつかせた。 昼休みの廊下を歩く2人。今日は和也が一緒だ。先日の呼び出しより恐怖は半分である。 「いつも通り俺は見えないところから覗いてるから、思い切って断ってこいよ!」 屋上への階段を上りながら和也は健人の背中をバシッと叩く。 痛いけど、健人にとっては嬉しい痛みだ。 屋上へ入る扉の前で、和也が行ってらっしゃいと手を振る。 と、その時ピンポンパンポンと校内放送が流れ始めた。 『2年3組 普通科 並木和也 至急職員室まで来るように』 健人も和也も動きが止まる。 健人に限っては体を硬直させ表情も死んでいる。 「あー悪い!多分今の部活顧問の先生だわ。 ちょっと行かないとマズイ……かも……」 和也が言うと、健人は俯いた。目には涙が滲み、鼻もずるずると垂れてくる。 「ああ、泣くなよっ。大丈夫だよ。その郷田先輩とやらもまさかお前を取って食おうとか思ってないだろ。多分」

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