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第22話
和也は非情にも健人に背を向けた。
「このうんこ野郎っ!……ぐすっ」
「すまん!健人!」
心を鬼にして和也が階段を駆け下りる。すると反対に登って来る生徒がいた。
銀髪で長身の美形。どこかで見たことがある。健人が考えているほんの僅かな隙に、和也は足を止めてその生徒に声を掛けた。
上履きのラインは赤。一年生だ。
「ねえ、君」
「は?」
明らかに素行の悪そうな風貌に、何をしても様になりそうなキレイな顔はある種の凄みを感じさせる。
和也は一瞬躊躇いを見せたが、部活の顧問から呼び出しを受けている手前、考えている暇はなかったのだろう。 部活の顧問が怖いと和也は常々言っているのだから。
「1年生だよね?俺2年生だから先輩ね。一つ頼まれて欲しいんだけど、あそこにいる可愛い先輩が今からレスリング部の部長とやり合うんだ。ヤバそうな感じだったら間に入ってもらえるかな?何なら先生呼んできてもいいし。じゃあよろしくな!あ、礼ならそこの小さい先輩から何かもらって!」
一息でまくし立てるように言うと和也は今度こそ階段を駆け下りた。最早全速力だ。
失礼なことを色々と言われた気がするが、和也は自分の代理として見ず知らずの銀髪の1年生を置いていくつもりらしい。
「え……わかんねぇ。何だそりゃ」
健人は声の方へ顔を向けた。 少し考えて、あ!と手を口元に当てる。インパクトある外見は忘れようにも忘れられない。すると向こうも健人を見て思い出したらしい。
「泣きながらタイマン張んの?筑波先輩」
「え……何で俺の名前……」
「あぁ、あの時の一部始終俺見てたんだよね。名乗るの遅れたけど俺は原田宗太」
健人は涙目でふいっと顔を背けた。 泣いている所なんて、和也以外に見られたくない。
「……」
黙り込む健人を前に宗太は頭を掻いた。
「話は大体聞いたけど、レスリング部の部長ってこないだあんたに告ってた人?」
もしかして本当に和也の代理をしてくれるのだろうか。
だとすると、レスリング部VS不良の図式が成り立つ。どっちが強いのだろう。
健人は今朝もらった郷田からの手紙を宗太へ差し出した。宗太は手紙に目を通し、「きしょ」と一言呟いた。
「危なかったら俺助けてやるから行ってこいよ。そんな成りでも男だろ」
そんな成りってどんな成りだ。
宗太の言葉にカチンときた健人はキッと宗太を睨み付ける。
「ば、バカにすんなよ」
健人はドアに手をかけてバンと勢いよく開ける。すうっと大きく深呼吸し、屋上へと足を進めた。
晴れ渡る青空。澄んだ風。
とは裏腹にどんよりとした空気を背負って健人は郷田の姿を探す。
「筑波君なら来てくれると思ってたよ」
「ひっ……!」
郷田は屋上にある給水棟の影からひょこっと顔を出した。
ゴリラのように逞しく流石レスリング部といった体格だ。
郷田の姿を確認した健人は一旦立ち止まる。なるべく距離をとっておきたい。接近戦は超危険だと健人の脳裏で赤信号がチカチカと点滅している。
「そんな所で立ち止まってないでこっちへおいで」
一呼吸置いて、健人は言う。
「嫌です。俺断りましたよね。何のために呼び出したんですか」
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